イノセント・エイジ
□3.初めての体験
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「麻里ー、今週の金曜日ギグがあるんだ。一緒に行かない?」
昼休み、お弁当を由紀子と食べていると春美が嬉しそうに来た。
「ギグ?」
前にも聞いたなと、あまり耳慣れない言葉に麻里は問い返す。
あのときは聞くのが面倒で、そのままにしたが。
「ギグってあんたのカレシの?」
由紀子もどこか怪訝そうにしていた。
「うん。今度カレのバンドがライブやるのよ。それでカレ、歌うんだ」
「春美の彼ってそうなんだ」
バンドをやっているとは聞いていたがヴォーカルとは初耳だった。
「そうなの! 前いっしょにやっていたヴォーカルの人が辞めちゃってね。でね、今度初ライブなんだけど、友達連れてきたらって言ったんだー」
春美は彼が歌うことになったことが自慢らしい。
「ふーん、おもしろそう」
由紀子は乗り気のようだ。
麻里は正直ロックバンドに興味がもてない。
あんなのは騒々しいだけで、何言っているか分からない。
「ねね、行こうよ」
春美が麻里に向かって言う。
中学生がそんな場所に出入りしても良いのかと、イイ子であるためのモラルも持っている麻里はそう思いもしたが、場所を聞いて行く気になった。
父の仕事先からほど近い繁華街だった。
父と会えるわけではないが、近くにいるという思いがそうさせた。
「家には何て言おうか」
遅くなる帰りを気にして由紀子が言った。
「翌日休みだし、ウチに泊まることにしとけば? ホントに泊まっちゃえばイイし」
こともなげに春美が返す。
「春美んち?」
「ウチ、あまりうるさいこと言わないから」
「――麻里んちは大丈夫?」
「んー…多分…大丈夫なんじゃない?」
「じゃあ決まりね。カレシにそう言っとくよ。楽屋にも案内してあげるね」