イノセント・エイジ

□2.家族という名の他人
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「麻里ー、あんた大丈夫なの?」
「何が?」

休み時間、由紀子が麻里の元に来る。

「今日顔色がすっごく悪いんだけど」
「そうかな」

体調の悪さは由紀子に言われるまでもなく、学校についたころから最悪だった。下腹が痛んでいる。

「……ねぇ、ママハハと上手くいってないの?」
「そんなことないよ。お母さん、イイ人だもん」

イイ人。そんなこと麻里は思っていない。
父を自分から奪った女。
だが、あからさまな感情は父を悲しませる。
だから。

「でもさ…よくあるじゃん、ママコイジメ」
「な、い、って。そんなの。それとも、由紀子はそういうの期待してるの?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけどね。麻里って最近元気ないって言うかー」
「元気ない?」
「ぼーっとしてる」
「元気がないのとぼーっとしてるのは違うと思うよ、由紀子」

由紀子に指摘されて麻里は思う。
学校では母を意識しないで済む分、気が緩んでいるのかもしれない。

「では、景気づけにパーっと行きましょう!」
「え?」

由紀子と同時に振り返れば、春美が立っていた。

「春美! あんたどこから――」

由紀子は不満げそうに春美を睨んでいる。
麻里のことを心配して話をしていたのだ。
その話が春美のせいで途中になってしまった。

「まぁま、堅いお話はこれぐらいにして。昨日のアクセサリー屋で割引券もらったのよ」
「何の?」

由紀子には悪いが、麻里は春美に感謝した。
学校にいるときまであれこれ考えていたくない。

「同じビルに入っているケーキ屋の割引券…ていうか、お茶券ね」
「ケーキ代だけでお茶飲み放題」

由紀子が春美の説明を補足する。

「んー、どっちかといえば、ケーキ食べ放題のほうがいいな」

麻里は思ったことを口にした。

「それは言えてる。でもイイじゃん、今日帰りによって行こうよ」
「そうだね。麻里行こうよ」
「あ、でも私、早く帰らなくちゃいけないんだ」

昨日の今日だ。
家には帰らねばならないが、妊娠を告げた義母の顔を見たくないと思ってしまった。

麻里の言葉に由紀子が首を傾げ「家?」と目線だけで問うが、詳しく家庭事情を知らない春美が明るく言った。

「ちょっとぐらいイイじゃん」
「そうね、ちょっとぐらい、ね」

春美に後押しされ、麻里は同意した。

こんな気分転換もたまには良いのだと理由をつけて――。




 
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