オリジナル小説

□雪の旋律
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 早朝の公園で積もった雪の上に立っていると、ひどく静かなことに気付いた。
 真っ白な世界が広がっているのはとても美しい。綺麗で、まだ優しい太陽の光がきらきらと照らしているけれど、どこか寂しい。雪の上の自分だけの足跡を見ていると、この世界で一人ぼっちな気がしてくる。
 深はゆっくりと後ろへと倒れこんだ。雪のお陰で痛くはない。背中から、冷たさを感じる。
 昨日は恋人と熱いくらい抱き合っていた。けれど、今、考えたら、あの時、自分達は温かさなんてなかった。互いに心の中に相手のぬくもりを探すのだけど、それは見当たらない。きっと、心の中に積もった雪はあまりに深すぎて分からなかった。
 深は雲ひとつない透き通るような青をした空を見つめながら、小さく歌を口ずさんだ。
 こないだ聞いた曲だが、どこで聞いたかもう、忘れてしまった。
 ただ、ギターの音だけで構成されていた曲で歌詞もなかったはずだ。
 あまりに綺麗で、でも切ない旋律は深の心の奥に深く残っていたのだ。歌いながら、このまま雪の中に埋もれられたらいいのに。雪の冷たさは自分の心とよく似ているから、雪と一体になりたい。
「風邪、引くよ」
 声がして、深は歌うのを止めた。自分を覗き込む顔に深は見覚えがあった。
 別のバンドをしているギタリストの裕樹で、いつも深のバンドを見に来ては、あんたの歌が好きだから、自分と一緒にやらないかと口説いてくる。それがうっとうしくて、深は彼を避けていた。嫌な奴にあってしまったと、深は顔をしかめた。
「嬉しそうな顔して。そんなに俺に会いたかった?」
「どこが嬉しそうなんだよ。あんた、こんな所で何しているの?」
「俺は昨日、飲みまくった帰り。言っとくけど、友達とだから安心して」
「心配なんてしてないけど」
 深はまた顔をしかめた。彼と話していると疲れるのだ。人懐っこくて、夏の太陽のように明るい。バンドを誘われてもやらないのは今のバンドがあるからという理由もあるが、彼が苦手だからというのも理由の一つにあった。
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