種運命小説:シンキラ以外はこちら
□好きというコトバ
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白く滑らかな肢体に触れながら、シンはふと思う。
この青い瞳に本当に自分は映っているのだろうかと。
自分よりも大きな存在が彼の中にいて、いつか、自分と彼を引き裂いてしまうのではないかと不安で仕方がなくなる。
離れないように。離れたとしてもまた自分を思い出してくれることを思って、彼を強く抱く。
プライドの高い彼が声を出すまいと必死になろうとも、喘いでしまうほどに。
行為の後、彼はベッドに沈んで動かない。自分のせいだと分かっているから、心が痛い。
もっと、ただ純粋に互いを求めて、気持ちよくなれるだけの行為を彼にしてやれない自分の幼さが情けなくなり、彼に嫌われたりしてないか不安に思う。
「レイ……大丈夫か?」
「平気だ」
頬に赤みがなく、青白い顔をしたまま、掠れた声で彼は呟いた。
「ごめんな……」
金色の髪を優しく撫でながら、シンは言った。
「なぜ、謝る」
「だって、ひどくやっちゃったし……」
レイは鼻で笑った。
「俺とお前は互いの同意の上でしたんだ。お前が謝る必要はない」
「まあ、そうだけど……」
「気にするな」
感情のこもってない口調なのに、彼の一言は自分を救う。冷たいようで、とても人を大切に想う優しい人。
シンは細い身体をぎゅっと抱き寄せた。
「俺、レイのこと好きだよ」
「俺もお前が嫌いじゃない」
彼は決して、好きとは言わないけれど、関心のない相手には好きも嫌いも表さない。
だから、嫌いじゃないというのは最高の言葉なのだ。
それでも、一度は好きだと言って欲しい。
それは叶わぬことなのだろうと分かってはいる。
レイに告白をした時、彼は言った。
「俺はある人のためにしか生きられない。もし、その人がお前を殺せと言ったら、殺すだろう」
その言葉には珍しく想いがこもっていて、レイとそのある人の間には入り込めない何かがあることに気づいた。
シンはそれでもいいから、コイビトになって欲しいと言った。
少しでも自分のことが嫌いじゃないなら、傍にいて欲しかった。それだけで満足出来ると思ったから。
けど、人の欲望は果てないものだと知った。手に入れたら、誰にも渡したくない。
「なあ、レイ……」
自分に黙って寄り添っていたレイが視線を上げた。青い瞳は空の色のように綺麗。
「俺はレイに殺されそうになったら、戦うよ」
彼はまったく表情を変えず、こちらを見ていた。まるで、そう言うことを分かっていたかのようだった。
「俺はレイになら、殺されてもいいと思うけど、あの世でレイが誰かのものになるのを見ているのは嫌だ。
だから、永遠に俺のものにするために殺す……」
ゆっくりと細い腕が伸び、シンの頬をレイは優しく指で拭った。
その時、初めて、自分が泣いていることにシンは気づいた。
「お前は優しいからな……」
優しくなんてない。ただ、自分の欲望のために動いているだけなのだ。
「俺はお前に殺されるなら、誰よりも嬉しいかもな」
嬉しいけれど、切ない。自分の涙を拭う手をぎゅっと握って、シンは悲しげに微笑んだ。
「そんな日が来ないといいな……」
「ああ」
「もし……そんな日が来て、どっちかが死にそうになった時は好きだって言ってくれる?」
「ああ。お前も言ってくれるか?」
シンは返事もせずにレイの唇を塞いだ。軽く口づけて、シンはすぐに彼の唇から離れた。
「約束のしるし」
冗談ぽく言ったけれど、シンの胸中は複雑だった。
レイが好きだと言った時が、永遠の別れ。
自分で好きだと言って欲しいなんて言いながら、二度と聞きたくない言葉になってしまった。
願わくば、あなたの好きを聞くことがないように。
そんな願いをこめて、もう一度、レイの唇に口づけた。
今度は長く、長く、強い想いをこめて。