D-ark short

□天使が堕ちた日
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 いつからだったか…。

 彼の、あたしを見る目が変わ
 ってしまったのは。


 笑顔の裏に隠し持った狂気に
 気付いたのは、もう手遅れに
 なってからだった…。






 天使が堕ちた日
 ‐飛べない鳥‐






 「あかね、最近乱馬君といな
 いね?」

 そう聞かれた瞬間に血の気が
 引いた。

 「そんなことないよ?登下校
 は一緒だし…」

 そう言いながら、ほぼ無意識
 に彼の姿を探して、教室にい
 なかったことに心底ホッとす
 る。

 こんなこと聞かれてしまった
 ら、気付かれてしまうかもし
 れないから。

 あたしが彼を避けていること
 を…。




 『笑うな』

 そう言われた日から、あたし
 は彼が怖くなった。

 最初は何かの冗談だと思った
 けれど、そう言った彼の目は
 本気だったから。

 本気で、あたしから笑顔を取
 り上げようとしていたのだ。

 なぜなのか。
 考えてもさっぱりわからなく
 て…
 けれど、あの時の彼の目を思
 い出すとなんだか怖くなる…
 これ以上目を合わせていると
 、彼に縛られて身動きすらで
 きなくなると、あの時感じた
 から。

 あの日から彼を避けるように
 なった。

 もしかしたら、もう気付かれ
 ているかもしれないけれど。
 それでも彼が何も言ってこな
 い間は、あたしも何も言わな
 いことに決めていた。

 そしてそんなあたしの考えを
 知ってか知らずか、それから
 しばらく、彼は必要以上にあ
 たしに干渉しなかった。

 だから安心してしまっていた
 んだ…。






 ******






 「行かせない」

 その時のあたしは完全に油断
 していた。

 腕を掴まれて、あぁしまった
 と思ったけれど後の祭り。

 その時の彼は、あの時と……
 あたしに「笑うな」と言った
 時と、同じ目をしていた。


 怖いのに目を逸らせないのは
 きっと本能的なものだろう。
 目を逸らせばその時点で、あ
 たしは彼に囚われる。
 捕食者から目を逸らせば、そ
 こで終わり。
 弱者はその時点でただの餌に
 変わるのが自然の摂理だから
 …。

 けれど、瞳から溢れ出るもの
 だけは止められなかったよう
 で。


 「……ぐすっ…」

 泣いたあたしを抱き締めた彼
 は、それはそれは優しげな声
 でこう言った。

 「行かない?」と。

 それはまるで呪文の樣で…
 ガチガチに緊張していたあた
 しの心を溶かしていく優しい
 言の葉。
 あたしの、わずかばかりの抵
 抗すら飲み込んで溶かしてし
 まう。


 ……気付いたら「うん」と言
 ってしまっていた。


 そして

 「ヨクデキマシタ」

 約束を断ったあたしを、彼は
 笑顔で誉めてくれた…。

 それまでの彼の態度に恐怖を
 感じていたあたしは、久しぶ
 りに心からの笑顔を見せてく
 れた彼に心底ホッとした。

 嬉しくて嬉しくて。
 やっと元の乱馬に戻ってくれ
 たんだ、って思って。
 その笑顔を見た瞬間に、あぁ
 やっぱり彼が好きだなぁと思
 った。

 今までの恐怖は、きっとあた
 しの思い違いだったんだ。

 だって、彼はずっと優しかっ
 た。

 いつだって、あたしが困って
 いたら助けにきてくれて
 泣いていたら手をさしのべて
 くれて
 良いことをしたら、心からの
 笑顔で誉めてくれた。

 そんな彼を怖いと思うなんて
 あたし、どうかしてたんだ…
 。






 ******






 「ね、あたしね。ほんのちょ
 っとだけ、乱馬のこと怖いと
 思ってた時期があったんだ」

 「ふぅん?」

 「どうしてだろうね?」

 乱馬はこんなにも優しいのに
 。
 あたしだけを愛してくれるの
 に。

 「…さぁな」

 その時の彼の笑顔、どこかで
 見たことがある気がしたけれ
 ど、抱き締められてすぐにど
 うでもよくなった。



 今、あたしはとても幸せです
 。

 時々、彼の瞳の奥に得体の知
 れない何かを感じる事がある
 けれど。

 そしてあたしはそれが何なの
 か、知っている気がするけれ
 ど。

 それを考える度に乱馬に抱き
 締めらて、すぐにどうでもよ
 くなるから。


 うん、やっぱり幸せです。



 end..



 Eccentric Loveの続き。
 あかねちゃん視点です。





 

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