09/28の日記

06:29
小噺 小平太と
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「それでな、潮干狩りして、海賊をやっつけてきた。海女さんたちにかっこいいって褒められたぞ!」

「ふーん…」

本日の七松小平太は、にこにこして上機嫌だった。
文次郎と長次とともに、きり丸のバイトを手伝って、海まで行ってきたらしい。

「なんだ?せっかく土産の蛤をたくさん持って帰ったのに不満があるのか?」

「いや別に。今日一日静かで平和だったのにいきなり煩くなったなと」

「ふむ、今日喋らなかったぶん、いつもの二倍喋っているかもな。七松が二倍だと十四松…」

「やめて」

十姉妹なんて可愛いものでは決してない。
小鳥どころか猛禽類だ。

「ふむ…土産はアサリの方が良かったか?アサリも大漁だったが、食堂のおばちゃんに渡してきてしまったのだ。きっと明日の味噌汁はアサリだろうな。だからお前も楽しみにして…」

「小平太」

「ん?」

「良いか小平太、イベント事において人間の魅力は三割増しに見えるという。運動会しかり雪山しかり、浜辺もまたしかり」

「何の話だ」

そう小平太は、提示された『三』の文字に首を傾げる。

「増されてたかだか三割だ。かっこいいわけあるか」

「うんうん。お前が何を言ってるのかさっぱり分からん。つまり私は二十一松」

「かけるな。三割だって言ってるだろ。普段七十点の人間が三割増しにされれば九十点を越えるが、お前の場合は…」

「普段の私は八十点越えてるぞ」

「ちゃっかり実技科目の点数で計算するな!小平太の座学は目の検査の点数じゃないか!」

「失礼な!私の視力はもっとある!たぶん!」

「視力より学力テストの点数の方が低いのはお前くらいだよ!」

※乱太郎きり丸しんべヱも目の方が良いです。

「あー、なんだ、あれだな。お前つまり――」

意を得たり、といった顔だ。

「私たちだけで海に行ってきたので、拗ねているんだろう!」

「………」

「図星だな!」

「………」

「子どもだなー、まったく」

「そうじゃなくて…」

「ははっ、私がちやほやされていい気になってるから、換言しておこうというのだろう?」

「…ま、まあ、そう、だけど」

「その換言、ありがたく頂戴しよう」

「…うん」

「まだ何かあるのか?」

「いや、別に…」

小平太は、小上がりに腰を下ろす。

「ごはん、まだ?」

「…まだだけど」

「そっかー」

「できたら呼ぶから部屋にいていいよ」

「いや、今日はお前とぜんぜん話してないから、ここで筋トレする事にする」

「えー…、台所にいるなら手伝ってよ」

「やきもちか?」

「は?」

「機嫌悪かっただろ、やきもちか?」

小平太は意外と意地が悪い。
拗ねているのかと聞いた最初から、これが言いたかったに違いない。
台所仕事を手伝いたくないのか、話題を都合の良いタイミングですり替える。

「別に、そういう…」

「はははっ、私など面白がられているだけなのに」

「三割増しで面白いんじゃない?」

「そうか。では、それはモテても仕方ないんじゃない
か?」

「………」

「冗談だ、ちゃんと夕飯前に帰って来たじゃないか」

「…食い意地が張ってるだけだろ…」

小平太は何か言いかけて、口を噤んだ。
しばらくそのままぶらん、と足を投げ出していたが、ふ、とその音もしなくなる。
やけに静かで振り返ると、傍らの桶の中をのぞき込んでいた。
桶の中には塩抜き中の蛤が浸っている。

「まだ食べられないよ」

「蛤というのは、貝合せに使う貝なんだそうだ」

「貝合せ?」

「そう、上の貝殻と下の貝殻で分けても、ぴったりと合うものは元のお互いしかない。だから夫婦和合の縁起もので、吉祥柄らしい」

「長次に教わったんだろう」

「まあな」


「だからお前への土産は、蛤にしようと思ったんだ」


な、と笑った。





「ちなみに小平太、蛤だけじゃなくてアサリもシジミも二枚貝はみんなそうだから」

「そうなのか!」


.



☆コメント☆
[秋桜] 10-02 21:41 削除
 こんばんは、お久しぶりです、秋桜です。
 毎回拍手だと超長文になってしまうので、今回はこちらにコメントさせていただきます。

 ついに七松さんが十四松さんに…更には二十一松さんに…相変わらず笑いネタが見事です。
 以前あったコメントのネタをさり気なく織り込んでくるあたり、露骨さが無い分センスの良さが光ります。

 あと、重要なのは蛤!婚礼に出される蛤!仲良し夫婦の象徴蛤!

『蛤だけじゃなくてアサリもシジミも二枚貝はみんなそうだから』

 …そうなんですか!
 見事なフラグクラッシュでございます。

 でも、何のかの言って拗ねてる遥さんが可愛いなぁと思います。
 あと、『ごはん、まだ?』と子供の様な事を言いつつも小平太さん、恋愛経験値を積んで確実にレベルアップしていますね。
 つき合い自体は長いですし、強力なライバルたちもいる事ですしね。
 結ばれた・くっついた…という表現だけが恋愛物語の主題では無いんだな…と、思いました。

 それでは、失礼します。

[めい] 09-06 02:21 削除

この後めちゃくちゃ貝類食べた――。

管理人です。
お返事が遅くなってしまって申し訳ございません。
おそ松さん、社会現象になっていましたので、つい乗っかってしまいました。
七松×ニ倍=十四松!
仲間内で核弾頭扱いなのはどちらも一緒ですね。

うちの小平太はそれはもー…。
私が書くと、元来素直なはずの小平太が回りくどくなってしまって困ります。
この人が本気出したらあっという間に話が終わる気がするので、ええ、色んな意味で終わる気がするので、私の中ではけっこう逆ハー泣かせなキャラです…。
けっこう今回の話は、うちの小平太にしては頑張ったなと思います(笑)


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