□煉獄さんはお世話がしたい。
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 あれから俺は、煉獄さんに抱えられたまま蝶屋敷に辿り着いた。
 俺達を見たアオイさんは口を押さえて飛び上がっていたし、すみちゃん、きよちゃん、なほちゃんは、それこそずっと俺と煉獄さんを見ていた。
 カナヲは変わらずにいてくれたけど、違ったのはしのぶさんだけだった。
『胡蝶は居るだろうか!竈門少年が怪我をしているので診てもらいたい!』
『…もういい加減おろして下さい…』
恥ずかしくて居たたまれないよ。何処かに消えてしまいたい…。
『あらあら、煉獄さんは何をしているのかしら?』
『うむ!少年を診て欲しい!』
『…炭治郎君は足を怪我しているんですか?』
『俺が見る限り足は平気なようだが?』
『では何故抱っこしてるんです?過保護も程々にして下さいね』
 ニッコリ笑ってはいるけれど、ちょっとだけ怒りの匂いがする。椅子に座った俺の腕や背中を丁寧に診てくれていたしのぶさんは、ふぅ、と一息ついて『煉獄さん』と言った。

『骨は折れていません。打撲と肩の傷がありますが止血も出来ているし、薬を出しますので七日は無理させない様にして下さい』
『七日か!怪我をさせたのは俺にも責任がある。少年、今から俺の家に来い。俺が身の回りの世話をしよう!』
『ええっ!?』

突然過ぎて驚く俺に、煉獄さんは顔を近づけてきた。
『大丈夫だ、俺は弟の世話も経験済みだ。なにも心配はいらない!』
 ニコニコして言ってくる。俺はどうするべきなのか。ただオロオロする俺を見て、しのぶさんはまた『煉獄さん』と声を掛けた。

『任務には出れませんが、この程度なら日常の事は自分で出来ますよ。そうまでして炭治郎君と居たいのですか?』
 楽しそうにニコニコして言うしのぶさんを前に、煉獄さんは固まってしまった。その姿を見て、もしかしたら図星だったのだろうかと、そんな図々しい考えがよぎってしまう。

『そうだと言ったら連れ帰っても良いのだろうか?』

れ、煉獄さん???
固まったまま言ってる────!!!!

『あらまあ、一体私は何を聞かされてるのかしらー?煉獄さんそろそろ瞬きした方が良いですよ?目薬出しましょうか?』
『──ハッ!…俺は何か言っただろうか?』

───ええっ!!!

しのぶさんと俺はきっと同じ顔をしていると思う。俺に似た顔の鬼と戦ってから、煉獄さんの様子がなんだかオカシイ。しのぶさんも、フム、と首をかしげて思案していた。
『炭治郎君はどうしたいんですか?』
『………どう、って…?』
『ここに居ても良いですし、煉獄さんにお世話になっても構いませんよ?君が決めて下さい』
 ニッコリ笑うしのぶさんは、楽しげな匂いをさせていた。きっとこの状況を本当に楽しんでいるんだろう。
 煉獄さんは、しのぶさんの言葉を聞いたとたん匂いが変わった。ソワソワして期待して全然落ち着かない匂い。煉獄さんを見る限り、その姿は変わらず落ち着いて見えるのに。
 俺は見すぎたのかも知れない。
煉獄さんと目が合ってしまった。駄目だ、また顔が上気しそうな気がする!

『いっ、一日だけ自分でやってみます!もしそれで大変なら、れ、煉獄さんにお願いしようかと、………思います』
 語尾が小さくなってしまった………。
悪戯に楽しんでいる匂いが、しのぶさんからする。そして残念な匂いと、少しだけ『慕う』匂いを煉獄さんはさせていた。
 
 俺に優しく微笑む煉獄さん。
どうしようもなく、心臓が煩くなる。
どうか、この音が、誰にも聞こえませんように。
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