迷走 Lovers-Unclean memorys-

□第一幕 おかしく回る歯車の日常
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この日常は永遠、無限ではく有限だと気付いたのは卒業の頃だった。
幼稚園、小学校、中学校、高校と、終わりに気付くまで無限に続くように思えた学生生活は終わりを迎えて初めて終わりに気付く。
毎回この繰り返しなのに忘れている、始まりあるものに終わりは必然であるのに自分のどこかで記憶から消されている。
だから気付かない、大切なものは離れていく瞬間に愛おしさに気付く…いや気付かないふりをしていただけ。
あの高校生活が俺らの大切なものを壊していくとは知らずに。

朝早く家を出て朝日が窓から溢れてる教室、誰もいない朝の教室は少しの間だけ自分の世界に見えた。
この僕、藤剛聖夜は卒業式前日にやっとこの僅かな時間を堪能出来た…彼女が来るまでだったが。
「聖夜がこんなに早く学校来れるなんて、明日はどんな卒業式になるか楽しみね。」
「今まで朝から頼んでもないのに目覚めのフルスイングをかましていた女はどこの誰だったっけ?」
「学校内で一番男子に人気がある私がしてあげてるのよ、感謝するか貢ぐくらいはしても損はないはずでしょ?」
この破天荒女…百合姫愛は学園内のアイドルではあるが本来の性格は悪魔だ、アイドルだなんて嘘でただのわがままな女。
唯一幼稚園からずっと同じで幼い頃は、「大人になったら愛ちゃんと結婚する!」なんてほざいてた時期もあった、なんとも無知で哀れな少年だったのだろうか。
学校では僕たちを下僕関係だとか使用人関係だとか噂されているが、これだけが唯一の救いでカップルでなく本当に助かっている。
もしカップルだと認識されたらファンから追われつつ、このアホ女の相手をいなくてはならなくなるから…平凡な男子高校生には刺激が強すぎる日常だ。
しかしながら、そんなクソみたいな日常にも癒しはあった。
「藤剛君に愛ちゃん早いね〜卒業式前に秘密の告白かなにか?」
「誰がこんなアホ!」
二人のセリフが一致するのはこんな時くらい…調律師とでも呼べる彼女、霧城夢香は僕のマドンナ。
彼女とは同じバイト先で知り合ってからずっと好きな僕だけのマドンナ、愛とのおかしな悪夢の中で光る唯一の光。
他愛もない会話が終わる頃にはHRの時間になり帰るマドンナの背を見つめる僕はロミオと言うよりジュリエットだった。
「明日告白するんでしょ、何か考えはあるの?」
「帰り際に夢香の家に寄るからその時に告白する、だけじゃないかな?」
「死にに行きたいのアンタ、何も取り柄がないアンタに勝ち目はない…最高のセリフかプレゼントくらい用意しなきゃ。」
授業中のノートでの会話は僕にマドンナを手にするアドバイスをくれた、まっすぐ進んでいたはずの日常がずれるきっかけになったとは知らずに。
HR後は早く学校が終わったから愛の家にて対策会議を開いた、しかしながらマドンナ攻略作戦は我ながら酷いネーミングセンスだっと思う。
会議の結果プレゼントではなく告白のセリフを良いものにする事になった、今回は恋愛経験が豊富らしい愛に試しながら模索することににした。
実践開始と同時にある男が現れた、数少ない小学校からの友人の西川啓太だった。
「対策会議秘密見届け人の登場ですよー。」
「啓太か…まぁ別にいても害はないし適当にマンガでも読んどいて、早くしないと時間なくなるよ聖夜。」
「ああ、まぁ宜しくお願いします。」
何回告白して何回ダメだしくらって何回笑われたか分からない、しかし回数を重ねていった結果出てきた間違いの告白が歯車を動かし始めた。
「ずっと一緒にいたいって思えた、そんな君を愛しているから…好きです付き合ってください、愛!」
つい間違えて愛の名で告白してしまい笑いだす啓太、殴られるであろうから必死に防御の構えをとった僕、ビンタの音は部屋に響いた。
「聖夜ちょー痛そうだな…まぁでもその告白で良いんじゃないかな、なぁ愛?」
「まぁ…合格じゃない、アンタにしては上出来よ?」
会議後の一人の帰路で少し疑問があった、あのビンタの音はいつも通り凄まじかったが痛みはいつもの半分の半分くらいだった気がする。
この時の俺は帰った後の愛の家での会話を知らない、帰って飯食って風呂入って寝た僕には。
「お前こそあの告白で満足してんのかよ?」
「何の話…良いじゃない、これであのバカ夢香ちゃんと幸せロードまっしぐらだもの。」
「あいつの最後の告白でお前嬉しそうな顔を隠し切れてなかったぞ、あいつは気付かなかったから俺も気付かないと思ったら大間違えたぞ?」
「本当に清楚で聖夜の悩みをちゃんとまじめに聞いてあげてたのは夢香ちゃん、そんな女の子と付き合えるなら応援してあげなきゃ。」
「俺としては自分を犠牲にしてでも好きな奴の願いを叶えてやる女って好きだな。」
「アンタなんて興味ないし他の男にも興味ない、聖夜だけが私の日常…あいつを好きなまま一人で死んでいく覚悟してるんだから。」
「偽りのマドンナを気取る野獣が真のマドンナに嫉妬するのも見たかったな、牙の抜けた野獣の戦意はないみたいだけど。」
「もう帰って、アンタとは付き合わないって言った…今は顔も見たくないもの。」
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