リク小説置場

□野生
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裕也を初めて見たのは校庭のグランドだった。
高校に入学して間もない頃だった。
入学した高校はいわゆる進学校というやつで、まじめでメガネが似合うお坊ちゃんばかりだった。
夜遊びなんかした事がないだろう奴らばかりの男子校。
冴えない会話が教室を飛び交う。
およそ女とは縁のなさそうな連中の中、オレだけが浮いた存在だった。
 両親を早くに亡くしたオレは、親戚の家に預けられた。
運がいい事に預けられた叔母の家には子供がなく、実の息子のように可愛がられていた。
自分の両親の事は全く覚えていない。
写真を見せて貰った時、初めて自分が父親似だと知った。
日本人には珍しい彫りの深い顔と高い身長、人を射るような眼差しは父譲りだろう。
オレの両親は代々続く資産家だった。
長男の父親は身分の会わない女との結婚を望み、家を捨て、その後二人して事故で死んだそうだ。
残されたオレを叔母夫婦はとても可愛がってくれた。
親戚連中が集まる度に、父親そっくりのオレの顔を見て誰もが顔を曇らせる中で叔母夫婦はオレを守り続けてくれていた。
オレの父親は一族の恥なのだろう。
そんな環境で育ったオレとしては、可愛がってくれる叔母夫婦がこれ以上肩身の狭い思いをしないようにと、学校の成績だけは上位を維持してきた。
 ただ、あの重苦しい一族の雰囲気に当たるたびに、自分が何者なのか忘れれる場所を求め、夜の街を徘徊し遊び続けていた。
 そんなオレが、この坊ちゃんだらけの学校でなじめるわけがない。
授業が終わればすぐに、教室を出て一人で帰っていた。
いつものようにグランドを通り過ぎ様としたとき、すさまじい風にグランド横の桜の花びらが舞い上がった。

「・・・・凄まじい程、綺麗だ・・・・・」
思わず呟いた。
桜の花びらが風に乗って運ばれる様を目で追った先に、裕也がいた。
陸上部のユニフォームを着て、走っている。
すらりと伸びた足が交互に動き、加速し、手に持った棒をしならせて、自分の身長よりもはるかに高い位置に掲げられているバーを見事なフォームで飛び越えていた。
多分一瞬の出来事だったのだろう。
けれど、オレにはゆっくりとしたスローモーションの様に裕也の美しいフォームが目に焼き付いていた。
体スレスレにバーを飛び越え、綺麗な弧を描きながら裕也はマットに埋まっていった。
手から離された棒がカランとなったのが聞こえた。
桜吹雪の中、その動きはとても美しかった。
マットから立ち上がった裕也は、飛び越えたバーを見上げて笑っていた。
適度に筋肉が付いた肉体は、野生の豹を思い描かせる。
一瞬にしてオレは裕也に魅せられてしまった。
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