素敵文

□想亜さんより 
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「…ぱぱ、まま、まだかえってこないの…?」
『ごめんなジュダ!もうすぐ帰るから!!』
『ヨハン!時間!!』
『あぁ!!ジュダ、本当に…』
ガチャン。
電話の向こうの、遠い両親の声。
こみ上げる寂しさに耐えられず、一方的に電話を切ってしまった。
「…わかってるよ。ぱぱもままも、おしごとがんばってるんだよ」
『らぴ?』
頭の上のラピスが不思議そうに首をかしげる。ジュダは膝を抱えて電話機の前に座り込んだ。
「でもね、きょうはいっしょにいてくれるっていったんだよ。けーきもたべようって…」
『らぴ』
「きょうはね、ぱぱもままもおしごとないひなんだよ?」
今朝になって、両親に急に入った一本の電話。
緊急のオファーで、どうしても十代とヨハンでないといけない仕事だったために、断れなかったのだ。
まだ幼いジュダにも、どうしようもなかったのだということはわかった。けれど、納得はできなかった。
本来ならば今日、ジュダの5歳の誕生日は両親と過ごすはずだったのだから。
「………」
壁にかけられた時計が午後の9時を知らせた。なるべく早く帰ると言って朝に出掛けた父と母はまだ帰ってこない。
恐らく今日は帰ってこれないだろう。今まで似たようなことが何度もあった。
暗い気持ちのまま、電気もつけずに自室に戻る。少し前に買ってもらった、一冊のカードホルダーを手に取った。
表紙を開くと、小さな精霊から大きな精霊まで、さまざまな精霊が飛び出してきた。落ち込むジュダを励まそうとして部屋中を飛び回る。
彼らの気遣いに、ジュダも小さく笑んだ。
「みんな…おれ、いいこだもん。だいじょうぶ!こんなことじゃなかないよ」
ぱらり、ぱらり。
めくるたびに飛びだしてきてくれる精霊たちが面白くて、ジュダは夢中になってページをめくった。
すると一枚、カードがホルダーから飛び出してしまった。どうやら入りきれてなかったらしい。
「あぶないあぶない…」
床に落ちたそれを拾い上げ、何気なく視線を移す。
突然、イラストがまばゆい光を発した。
「わっ!?」
『『『ジュダ!?』』』
『らぴっ!?』
しばらくして光が治まったとき、そこにジュダの姿はなかった。
<偶然の出会い>
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