星空の本

□音を紡ぐ
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「Happy Birthday dear 月子先輩ー」
ピアノの上で、指が躍る。
「Happy Birthday to youー」
1拍の間を置いて、小さな拍手が星実に送られた。
「だいぶ上達していますね」
「本当ですか?」
「はい。楽譜が読めなかった頃から比べると、まるで別人のようですよ」
「副会長様に言ってもらえると嬉しいです」
明日にあたる9月16日、月子本人の願いで、誕生日に星実にピアノで弾き語りをしてほしい、と颯斗に頼み込んだ結果。
楽譜も読めなかった音楽経験なしの星実が一人前にピアノを弾けるになっていた。
『弾き語り』という行為は月子にとっては残酷なものの1つだ。それでも月子が頼むのは、星実と颯斗が仲良くなってほしいからだろう。
「もう少しこの部分を強く弾いたほうがいいですね」
「はい」
星実は颯斗に言われた事を今まで1つ残らず書いていた。もちろん今回も例外ではない。
「今日の練習は、ここまでにしましょうか」
「あ、待って下さい!」
星実は慌てて颯斗を呼び止めた。
「最後の微調整を聞いて下さい。あ、颯斗先輩のお時間があればですが…」
「構いませんよ」
柔らかく微笑む颯斗に安心の息をつくと、ピアノの上に指を這わせた。
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