カリカリ…
『…。』
カリカリカリカリ…
『……。』
八月も後半に入ったのだが、暑さは以前よりも厳しくなっている…ように感じる。
その中でも書類を捌く手が止まらないのは流石副官補佐といったところか。
「綾さん、そろそろ休憩しましょうか…?
始業からほとんど休んでないでしょう?。」
コトン、机に冷茶が入ったコップを置きながら七緒が声をかける。
『伊勢副隊長…!
そうですね、そうします。』
「それにしてもその集中力は流石ですね。
隊長にも見習って欲しいわ…」
『全くですよ…誰の所為でこんなことになっているのか分かってるのかしら。』
言わずもがなこの場には七緒と綾しかいない。
今日もどこかでのらりくらりしている京楽の仕事を二人で分担しているのだ。
ズズっと一口お茶を飲むと、綾は盛大にため息をついた。
『…まあいいですけど。いつものことですし。』
「ごめんなさいね。手伝ってもらって。」
『伊勢副隊長が謝らないで下さいよ!』
「ですが…」
『ささっ、残りも片づけちゃいましょ!早い方がいいですよ。』
「…そうですね、頑張りましょう。」
伊勢副隊長のほほ笑みは天使だ!なんて思いつつ、次の仕事に取り掛かろうと席を立った…その時。
“ミーーーン”
『ぎゃああああ!!!!』
「綾さんっ!?」
この時期の風物詩がちゃっかり執務室にお邪魔していた。
それも大事な書類の上に。
『ひいぃ…蝉だ…気持ち悪っ…』
「私も苦手です…」
『ですよね…どうしよう…ホント無理なんですあれは…』
蝉一匹を前に固まる二人。
『どいてくれないかなー…仕事できない…』
「どかせばいいじゃないですか?」
『私は蝉を見たら無視か逃げるしか選択肢がないんです。
伊勢副隊長お願いできますか?』
「うっ…」
一瞬ギクリとした七緒を見、自分と同じということを悟った綾。
『ですよね…はぁ困った…流石に鬼道とか使えないしなぁ。』
「それはダメです。」
『分かってますよー。あー見てるだけでも気持ち悪い。』
「(…綾さん口調が変わってませんか?)」
そんなやり取りをしている間も当の蝉は全く動く気配がない。
「…しょうがないですね。」
『何か解決策が浮かんだんですか!?』
「このまま待機しましょう!」
『ええっ〜〜!?蝉と一緒の部屋で仕事するんですか!??』
「これが現在考えられる最善の方法だと思います。」
『うううっ…しょうがないかぁ…』
確かに自分の取れる選択肢にも当てはまる。
納得したくはないがどうしようもない。
「でhガラッ!!!「七緒ちゃ〜ん、綾ちゃ〜ん、戻って来たよ〜」」
“バチバチバチ…”
『ぎいやあああぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!』
京楽が戸を開けた音、それにビックリした(であろう)蝉の羽音、さらに綾のものすごい悲鳴と足音が同時に隊舎内を包み込んだ。
cicada
(えっ、ボク何かした?)
(何というタイミングで戻って来たんですか…)
.