Whim
□Whim
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「ねえねえ仁王君、ここは?」
そう言って見つめてくる彼女に、問題の解法を出来る限り丁寧に教えてやった。
彼女は真剣に説明を聞いてくれている。
「おお、なるほど!」
他人に勉強を教える、だなんてらしくないけれど。
それは、彼女だからこそ、で。
毎回、なるほど、と嬉しそうな顔をして言う彼女が好きで仕方が無くて。
「仁王君、これで合ってる?」
「あぁ」
説明する度に、ひたむきに問題と向き合う様に惹かれて。
「じゃ、次!」
その、真剣な横顔に、惹かれて。
「………好き」
だから、思うままに、小さな声で告げてみるのだけれど。
「…で、これが、こう。だよね、仁王君?」
「…、…」
「仁王君?」
「…あぁ、」
届かなくて。いや、届ける勇気が無くて。
今日も、彼女に気付かれないように。
小さく小さく、溜め息を吐く。
( 仁王君が片想いとかめちゃくちゃ可愛いと思う。 )
―――――
( 本当はずっと前から、 )
「ブン太ー」
「何だよ」
「元気無いねー」
「そんな事ねえけど」
「飴あげるから、元気出しなよ」
「子供扱いすんなっつーの」
「とか言ってちゃっかり貰ってるし」
「うるせ」
「振られたんでしょ」
「悪いかよ」
「別に」
「…、…」
「…ブン太ももっと周り見たら良いのに」
「…、…」
「もっと、ブン太を大切にしてくれる人がいるかもしれないじゃん」
「んー……」
「例えば……私、とか、さ」
「ぶっ」
「な、何で笑うの!?」
「いや、その通りかもなーって思って」
「え…」
「―……本当はずっと前から、好きだった」
「…何それ、今更」
「そのために振られたって言ったら?」
「馬っ鹿みたい」
「悪いかよ」
「全然悪くない」
「だろい?」
( 両思いでした。 )
―――――
( 本当はずっと前から、U )
「赤也君て秘密とか無いでしょ」
「何スかいきなり」
「いや、何か赤也君て隠し事下手そうだなあって」
「先輩に対しては、出来るだけ隠し事しないようにしてますけど」
「そうなの?」
「…でも、一つだけ。秘密にしてたことがあります」
「それ言っちゃって良いの?」
「あ、」
「くっ」
「ちょ、笑わないでください!」
「ふ、赤也君は可愛いね」
「嬉しくないっス」
「で、その秘密ってのは何なのかな?」
「え?」
「私には隠し事をしないんでしょ?」
「や、それは出来るだけ、ですよ」
「そっか…。ならいいけど」
「う、」
「ん?」
「じゃ、じゃあ言ってあげますよ」
「じゃあ聞いてあげますよ」
「…、……」
「あれ、言わないの?」
「言いますっ! オレ、本当はずっと前から、先輩のことが好きでしたっ!!」
「ホントに?」
「ホントです」
「ありがとう、私も赤也君のこと好きだよ」
「え、マジっスか!?」
「うん。でもね赤也君、一つ言わせてもらうと、」
「……?」
「それ、秘密になってなかったよ」
「え」
( 気付いてました。 )
―――――
( 二人を乗せて走る自転車が、 )
「なあなあ」
「……」
私がこぐ自転車の荷台に乗る赤い髪の彼が、突然声をかけてきたけれど。
重い自転車を必死にこぐ私には返事をする余裕などなくて、無視をした。
そもそも、私達のポジションは逆であるような気がするのだが。
「無視すんなよ」
「な、何……」
「俺さ、お前のこと、好きなんだけど」
「は!?」
やっとのことで返事が出来たと思ったら、思いがけない彼の発言。
二人を乗せて走る自転車が、大きく揺れた。
「っぶね、」
「うわっ!」
驚いて、ブレーキを握った。その反動で、ぽす、と彼の頭が背中に寄り掛かってきたのを感じる。
何のせいか、心臓は大騒ぎをしていて。呼吸も少し速くなる。
「ちょっとブン太」
彼の頭は背中に当たったままだ。彼は頭を上げようとしない。
「俺さー、お前とこうやって帰る時間がすっげえ好き」
「…、…」
低い彼の声に、何だか胸が落ち着いた。
「お前といるとすっげえ楽しいから、ずっと気付けなかったのかもしれねえけど」
「…、…」
「お前のこと、好き」
「……うん」
目を閉じて、夕焼けを感じながら。私も彼と同じ言葉を紡いだ。
好きだよ、と。
( ちょっと、ひとやすみ。 )
―――――
( 彼と私がそれぞれに描いていた未来は、 )
「精市、将来絶対に実現したいことは?」
「ん、君にしては前向きな質問だね」
「失礼な」
「ふふ」
「で、質問に答えてよ」
「うん、取りあえず君を俺のものにして、一生隣に居てもらうことかな」
「え」
「できれば近い将来に実現したいんだけど」
「……精市」
「何?」
「私も全く同じこと考えてたよ」
「そう。じゃあもう実現できそうだね」
「………うん、」
( どうやら、どこかで交差しているようだ。 )
―――――
( 僕しか知らないこの甘味を、 )
「ブン太何か食べてる? 甘い匂いするー」
「飴食ってる」
「ほー、どんな味ー?」
「……甘い味」
「いや漠然としすぎでしょ」
「そんなに知りたいのかよ」
「別にー」
「しゃあねえな、教えてやる」
「は? ちょ、待、」
「待たない」
「やっぱりいいからっ」
「だーめ」
「――…っん、」
( キスで君に教えよう。 )
―――――