story (R18)

□消えない傷
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 リクオのくちづけが熱っぽくなってきたのに気付いて、鴆は彼の肩を押し退けた。
「?……んだよ?…調子悪ィのか」
 不満気な表情はすぐに気遣いに変わり、鴆を覗き込む。
「調子悪いのはお前ェのほうだろ」
 夜の姿のリクオはそれを聞いて、ふふ、と笑う。
「もう治った」

 つい2日前、リクオは出入りで傷を負った。足と腕の二カ所に深い刀傷を受け、鴆に処置してもらっていた。
 今日鴆はその様子を診るため本家に来たのだが、妖の姿で出迎えたリクオは相変わらず怪我人とは思えぬ振舞いだった。
 自室に鴆を連れ、傷をあらためようとするその手をとり唇を重ねた。

「あんな派手な傷が、昨日今日でふさがるかよ。ほら、見せな」
 楽しげに笑っているリクオの片腕を掴み、包帯を解く。肘から手首にわたる長い傷は確かにふさがっていて、わずかな皮膚のひきつれが確認できるだけだった。
 足首の傷も同様で、慎重に触れた鴆は安堵とも感嘆ともつかないため息をついた。
「はあぁ、ほんっと、お前ェの回復力は奇跡だわ」
「鴆の薬が効くんだよ」
「もうお世辞にしか聞こえねー」
 本気だよ、とリクオが笑う。不要となった包帯を片付けながら、そりゃどうも、と返事をした。
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