story

□春色の空
1ページ/1ページ

 エイプリル・フールは嘘をついても許される日であるからして。

「若!首無の首がつながりましたよ!」
 朝から青田坊の大声に起こされ、
「わか〜!朝食はクジラの丸焼きですよ〜!」
 つららが叫び、
「若、眉毛繋がってますよ、鏡見て来てください」
 首無の下手な演技を見て、
「若!ほらこのハンカチ、縦縞が横縞に!」
 黒田坊に至っては、全く意味不明だった。


「朝からなんなのさ、もう…」
 ずり落ちる眼鏡を直して、リクオは味噌汁を飲みつつ、わいわいと盛り上がる妖怪達を眺めた。
「エイプリル・フールだから、誰が一番すごい嘘を考えつくかって競ってるのよ」
「母さん…」
 若菜の声がして見上げると、母はいつもと変わらずにこにこと微笑んでいる。
「私もさっきね、3の口くんが花粉症になっちゃって鼻水が止まらなくて大変だって聞いたから、行ってみたら……3の口くんて、鼻がないのよねー」
「……あはは…」
 力無く愛想笑いをして、食事を続ける。
 朝から立て続けにリアクションを求められて少々疲れたが、その賑やかで平和な様子は嫌いじゃなかった。
 朝食を終えてお茶を飲んでいると、側近たちは一同ちゃぶ台を囲んで、誰のついた嘘が面白かったかなどと言い合う。
「若!若もなにか面白い嘘、ありませんか〜?」
 つららが無茶振りをする。
−−嘘だってわかってたら、なんにも面白くないじゃないか。
  ……待てよ。
「じゃあボク、今日は学校サボるよ」
 湯飲みを置いてそう言うと、側近たちは「またまたぁ〜」などと口を揃える。
「学校サボって、デートでもしてこようかなっ」
 つららの眉がピクッと動いたが、これまた揃って「またまたぁ〜若ったら〜」と、嘘だと思っているようだ。
 じゃあそういうわけだから、とリクオが席を立つ。側近たちはまた同じ話に戻り、わいわいとやっていた。
 リクオは上着に腕を通し、財布と携帯電話をポケットに押し込むと裏庭に出た。
「朧車、朝から悪いけど、頼むよ」
 桜のほころぶ浮世絵町の空を行く。

−−みんな、いつ気付くだろう。
  春休みだから学校なんか無いことに。

 幼い頃悪戯をした時のような笑みがこぼれる。

−−さあ、夕方までどうやって時間をつぶそう。猩影くんなら昼間起きているだろうから、組の様子を見に行こうかな。日が沈んだら、鴆くんとお花見をしよう。

デートっていうのは、皆は嘘だと思っててね。
彼のことが愛しいっていうのは、誰にも内緒だから。

 桜色に縁取られた街道や川を見下ろす。すぐに散ってしまうから美しいのだとは、一体誰の言葉だったか。
 できればまだ散らないでいて、と願うのは愛しいあの人のこと。



 さてリクオが出掛けてしまった奴良組本家。ようやく春休みだと気付いたつららが、不思議そうに言った。
「じゃあリクオ様は、どこ行ったんでしょうねえ?まさか本当にデートなんて……」
 首をかしげるつららに、若菜はいつも通り微笑んでいる。
「たぶん、鴆くんのところじゃないかしら?」




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ