story

□悪い遊び
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 奴良組本家では総会が終わり、もうじき日がかわろうとしていた。

 鴆は宴会を抜け出して、リクオの部屋で彼と並んで茶をすすっていた。本当は酒が欲しいところだが、主は今昼の姿なので飲酒は好まないようだ。
「総会の後、総大将に呼び止められてよ」
 おじいちゃんに?と、リクオが片眉を吊り上げる。
「リクオは悪い遊びを知らんから、いまいち垢抜けねぇとよ。だから、義兄弟のオレが教えてやれ……って言われたんだが」
「悪い遊びって?」
「女遊びとか、賭け事だろ。化け猫横丁のキャバクラにでも連れてけだとさ」
 淡々と話す鴆。リクオは茶をすすり、はあ、とため息をつく。
「余計なお世話だって……全く、そんなの興味無いよ」
「夜のお前も?」
「無い無い。博打は見るだけ、化け猫横丁でもただ飲むだけ。それに、そんなめったに行かないし」
 ふうん、と鴆は湯呑みをとる。茶を飲んでからニヤリと笑んで、
「女遊びより、イイ事知ってるもんな」
「は?なにそれ」
「わかんねぇかなぁ」
 鴆は身を乗り出すとリクオの肩を捕まえ、くちづけた。抵抗されるより早く抱きすくめて動きを奪うと、舌を差し入れた。
「ん……んん…!」
 鴆を押し退けようとした腕もそのうちに力が抜け、深い口吸いに応じるようになった。十分楽しんで、鴆は唇を離す。
「な?悪い遊びなら知ってるもんなぁ」
「……馬鹿。遊びじゃないよ」
 頬を染めて、リクオが目を逸らす。

 鴆とこういう事をするのは遊びじゃない。本気で鴆の事を、想っているから、なのに−−。

 リクオが黙ったわけを察して、鴆はすまなさそうに褐色の髪を撫でた。
「ああ、悪い、言葉のあやだよ。な、オレだってお前ェと遊びなわけ−−」
「わかった、言わないで」
 鴆の首に抱き着いて、言葉を止める。
 わかってる、お互いが本気だって事は。
「……リクオ」
 鴆はリクオの背を抱き返した。お互いの呼吸だけが聞こえる距離に、愛おしさが込み上げる。
 なんとなくいい雰囲気になったな、と、そのまま畳に押し倒すと−−
「ちょ!だ、だめ!ボクの部屋じゃだめっ!」
「えっ……ええ!?」
 実はまだ本家で夜を共にした事はない。突然叫ばれて、鴆は素で驚いた。
 リクオはといえば、必死になるあまり弾みで夜の姿に変化してしまう。
「なっ…なんでだよ!」
「いつ誰が来るかわかんねーだろーが!」
「えええ……」
 思い切り残念そうな鴆だが、それでもリクオにのしかかったままどこうとはしない。さらには、いい事を思い付いたとばかりに笑って、
「そんなら、お前ェ今変化したから、明鏡止水で見えなくなっちまえばいいじゃねえか」
「…わかんねぇかなぁ」
 鴆の肩を押し退けようと両腕を突っ張ったまま、リクオはぼそぼそと言った。
「……やってる最中に、畏使ってる余裕ねぇよ」
 言いながら耳まで真っ赤にする主がかわいらしくて、鴆はさらに欲情するという悪循環。
「おま……ちょ、たまんねぇな」
「おい、人の話聞いてんのかよ、どけっての」
「あー、もったいねぇ〜」
「だから!どけって!」
 廊下に響く足音が間近に迫るまで、そのままの押し問答が続いたという。




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