story
□彼の本性
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日付が変わってから薬鴆堂を訪れた妖の姿のリクオは、何やら酒瓶を携えていた。
「お、今日は土産付きかい」
玄関で出迎えた鴆が笑う。
「……土産っていうか」
鴆の鈍さに加えて、薬師一派は本家と違ってイベント事にあまり関心がないらしい。
今日が何の日か、本人すら気付いていないとは。
リクオは少し呆れて、鴆とともに彼の部屋へ向かった。
途中で炊事場へ寄り、猪口と肴を調達する。鴆の部屋で、リクオは酒瓶の風呂敷包みを解いた。
一升瓶より一回り小さい瓶の中には、酒に浸かった、まるごと一匹の蛇。
「おぉ、マムシ酒か?」
鴆の目が、きらりと輝く。
あ、嬉しいんだ、とリクオは安堵した。
三代目からの手土産を喜ばない奴ではないが、それでも、喜んでもらえればやはり嬉しい。
「いや、それハブ」
「ハブ酒!?はあ〜、へえ、珍しいもん手に入れたなぁ。確か沖縄のほうじゃなかったか」
鴆は酒瓶を手にとり、しげしげと眺め回す。
「沖縄に知り合いでもいるのかい?」
リクオには、鴆がどうしてこんなに鈍いのかわからない。閨や治療のときの他人に対する鋭さに比べて、自分自身には関心がなさすぎる。
「あのさ、今日は鴆の誕生日だろ?」
面倒なので言ってやった。
鴆は酒瓶を持ったまま、はたと気付く。
「え?あー?……あぁ!そういやそうだ」
「忘れてたのかよ」
「んー、誕生日なんか、元服の時くらいしか気にしなかったからなぁ」
じゃあコイツはわざわざ沖縄まで行って来てくれたのか、と鴆が聞く。
「いや、ネットで買った」
ITに疎い鴆が、少し間をおく。
「…ん?……あぁ、通販みたいなやつな。探してくれたのかぃ」
ありがとな、と笑った。
勉強熱心な昼のリクオが、鴆について調べたところ、鴆はもともと毒蛇を主食としているらしい。
だから毒蛇の入った酒なんか喜んでくれるんじゃないかなあ、と思ったのだ。