アイテム2
□TSUNAMI
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携帯の着信が鳴った。
久しぶりに聴く、彼と同じ名前の歌。
本当は嬉しくて、すぐに出てしまいたかったけれど、彼が奏でた音楽を消してしまうのがもったいなくて―――。
音村はわざと通話ボタンを押さなかった。
「…………あ。」
どうやら聴き入ってしまいすぎたらしい。
ぷつりと音楽が切れて留守電に切り替わってしまったようだ。
音村は慌てて携帯の通話ボタンを押した。
耳に響く、懐かしい彼の声、リズム。
「やぁ綱海。どうしたんだ?」
『いや、用なんて特にないんだけどよ〜みんな元気にしてっかなーと思ってさ』
相変わらずの様子に思わず笑みが零れてしまう。
あの時と何も変わっていない、自分が知っているままの彼だ。
『あ、お前今なんか笑っただろ!』
「ごめんごめん、全然変わってないなって思ってさ。綱海の活躍いつもテレビで見てるよ。オーストラリア線で先陣切ってゴール決めた時は驚いたよ」
『おう!見てくれたのか!?ありがとな!!まぁいろいろと大変だったんだけどよ』
小学校からサッカーを始めた音村からすれば綱海なんて最近始めたに過ぎないのに、彼は波に乗ってあっと言う間に音村を抜き去り、遥か彼方の向こう岸についてしまった。
決してそれをひがむわけではないが、ただ、彼が遠くにいってしまうような気がして音村はそれが怖かったのだ。
ただでさえ島で隔離された地域に住まう彼らの絆は普通のそれとは違う。ほとんど家族同然、もしくはそれ以上の関係であって。
「そんなに楽にキメられても困るだろう?苦しいことや辛いことがあるから、」
『楽しいんだ!って言いたいんだろ!?わかってるってーの!!』
「ははっ、わかってるよ」
どんなに先を歩いていても、綱海は必ず後ろを振り返り、そして走ってやってきては手を引いて一緒に前に進もうとしてくれる。
そんな綱海が――
「――好きだ」
『ん……?なんだよ急に。あったりめぇーだろ!!』
「そうだね……それで、次はいつあえる?」
『あー…そーだなー……FFIが終わるまでどうしようもねーからなー……』
「だよね」
『ああ…いや、オレだってすぐに沖縄帰ってお前らと騒ぎたいけどよ!』
「だと思って――」
コンコン。
目の前の扉を叩く。
『あ、ワリぃ。ちょっと待ってな。誰か来た』
ガラッ。
目の前の扉が開いて――
「来ちゃった」
『あーーーー!?』
電話と肉声の両方で耳に響く、懐かしい彼の声、リズム。
「おっ、おとっ、音村ッ!?」
口をぱくぱくさせなから驚きに指を向ける姿もまた可愛くてたまらない。
「うん、たまには乱れたリズムもいいね。トゥントクトゥントゥク……」
「来るなら来るって最初から言えよバカッ!!驚いて死ぬかと思ったぞ!!!」
久しぶりに声を出して大笑いして、綱海の元気そうな姿を見て。
「お前が死ぬにはまだ早すぎるよ」
これから、いっぱいやらなきゃいけないことがあるからな。
――一緒に、さ。
「綱海」
波の音が、聞こえる。
僕らを繋げる海の音が。
Fin.
→あとがき。