アイテム2

□真夏の空の真下
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「はぁっ…はぁっ…ラスト一周……!」

炎天下の中でもろくに休みもせず、朝から晩まで練習を続ける緑川の姿は、もはや雷門中だけでなく、稲妻町でも有名になっていた。

そんな彼の身体を心配する声も少なくなかったが、過去に雷門中や傘美野中を大破させるという破壊活動をしていた黒歴史があり、利用されていたとはいえ、今だあまりよく思われていなかったりすることに加えて、緑川が激しい剣幕で練習に熱中していることで、誰も声をかけようとはしなかった。

だからまあ、いつかはこうなるだろうと周りは予想はしていのだけれども。

「はぁっ…はぁっ…――」

膝から崩れ落ちるように、緑川は地面に倒れ込んだ。


近くで練習していた他の部活動生が驚き、心配して駆け寄ってくる。
は、は、と短い呼吸を繰り返して、苦悶の表情を浮かべる緑川に、数名の女子が「先生を呼んでくる!」と校舎へと走っていった。
とりあえず木陰に運ぼうと、駆け寄った男子生徒が持ち上げようとしたが意識を失った人間というのは想像以上に重く、四苦八苦していた。
するとそこに、


「代わろう、ボクが運ぶよ」


いつの間に現れたのか、見馴れない赤髪の少年がよいしょ、と苦戦していた緑川の身体を軽々とは言えないが一人で抱き上げた。
そういえば彼は日本代表のメンバーだ、テレビで見たことがあるような気がする、とそばにいた男子生徒は今更ながら思い出した。

「保健室の先生いないってー!とりあえず保健室はあけてもらったー!!」

先ほど教師を呼びに走っていった女子生徒が、やはり走りながら戻ってきた。


「靴を脱がせて…彼の荷物と一緒に持ってきてくれないかな?」


やわらかな声で話し掛けられ、その男子生徒はこくこくと頷いた。

「ありがとう」

同性の自分でも、思わずドキッとしてしまう微笑み。
緑川を抱えて保健室へ向かう彼の背中を見ながら、将来あんな風になりたい、とその男子生徒は思った。…実際年齢は自分とあまり大差ないのだろうけれど。


――もちろん、その男子生徒は彼がエイリアの頂点に立つ者だったということなんて、知る由もなかった。
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