アイテム2

□花火
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「よっ、と」

立ち入り禁止と書かれたフェンスをよじ登りながら、鬼道はすでに向こう側へ降り立った人物に向かって疑問の声をあげた。

「円堂、いいのか勝手にみんなから離れて」

今日は一年に一回の稲妻町のお祭りの日。いつもの雷門中のメンバーを始め、イナズマジャパンの面々が集まって、皆でお祭りを楽しみに訪れていた。
しかしその輪を外れて、騒がしい祭りの人ゴミから離れた人気のない小高い丘の鉄塔ひろばに、鬼道と円堂の二人は居た。

「大丈夫!ちゃんと豪炎寺に伝えてきたから!」

不安気な鬼道の言葉に、円堂が力強く答え、
すたっ。鬼道が円堂の横に着地した。
これで2人とも立ち入り禁止区域に居ることになる。

「豪炎寺に何て言ったんだ?」

鬼道の腕を掴み足早に前を歩く円堂に半分諦めながらついていく。
円堂が元気よくその問いに答えてくれた。

「鬼道がお腹痛くてトイレに行きたいっていうから、ついてってくる!って」
「…………」

鬼道は嘆息した。




「鬼道!静かに登るんだぞ!しずかになっ!」

まずは自分から静かにするべきだ、と胸中で呟いて鬼道は鉄製の梯子に手足をかける。
馴れた様子ですいすいと登っていく円堂の後を追って、鬼道も上がっていく。

途中、ふと街の方を見降ろすと、そこには宝石を散りばめたような美しい夜景が広がっていて、鬼道は思わず足を止めてその景色に見とれてしまった。そのまましばらく夜景に心を奪われていると、頭上からすでに目的の場所についたらしい円堂から早く、との声が降ってきて、鬼道は再び足を動かす。
やがて円堂の元に辿り着くと、そこからの景色に鬼道は言葉を失った。

『綺麗』とか『素晴らしい』等という自分の陳腐な言葉ではとうてい表現できない美しさ。


「なんでこんなにいい場所を立ち入り禁止にしちまうんだろうなー」
「祭りでうかれて、ふざけて落ちたりするやつがいるからだろう」
「そんなこと、オレらはしないのに」
「世の中いろんな奴がいるのさ」


そうはいっても、本来ならば警備員等がいてもおかしくないのに、立ち入り禁止のフェンスだけで済んでいるのはきっと稲妻町住民のマナーが良いからだろう。
――もっとも、ここに約一名、マナーの守れない人物がいるようだが。いや、断りもせずについてきてしまった自分も含めて二名か。
そんなことを考えながら円堂の横で絶景を眺望する。
高所のためか、吹く風が涼しくて気持よい。


「鬼道」
「なんだ?」


声の方を振り向くのとほぼ同時に。
にゅ、と円堂の腕が伸びてきたと思ったら、あっと言う間にゴーグルをさらっていかれた。


「お、い……」
「そんなのつけてたら、せっかくキレイなのにちゃんと見えないだろ?」


小さい子が叱るように、円堂が口をとがらせて言った。
それもそうだな、と納得して鬼道は再び夜景に目を戻すと――


「あぁ……」



確かに、クリアで見る世界は違う。






「なあ、鬼道」
「うん?」
「オレさ、お前のこと――――」


ひゅーーーー、
どーーーん。


芯に響く心地よい振動。
視界いっぱいに広がる、火の花弁。


ひゅーーーー、
どーーーん。
どーーーん。


咲いては散ってゆく花々を横目に。



「なんだ?悪い、聞こえなかった」

「だ、か、ら、」



ひゅーーーー、



円堂の顔が、すぐそこまでに迫ってくる。


どーーーん。


「――――」


鬼道の頬が真っ赤に染まる。
それは花火の反射なのか、それとも別の何かなのか。


濡れた唇をおさえて、鬼道はただ茫然と眼前にあがった最高の花火を眺めていた。



Fin.
→あとがき。
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