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□初夏凛凛
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「あれが水面だと思ったことないか?」
「は?」
青天の霹靂。
そんな訳のわからないことを、涼を求めて開け放った窓から身を乗り出しくつろいでいたところに言ってきたのは、鬼道だった。――もっとも、それ以外はありえないのだが。この二人しかいない空間では――彼は不動の隣に並んで、青い青い空を見上げていた。
「小さい頃よく思ってた。水槽の中の魚達はいつもこんな気持ちなのか、って。
『ここが世界のすべてだ』って思っているけれど、本当はそんなの『本当の世界』のほんのわずかな一部分でしかなくて、あの水面の上にはもっと大きな世界が広がっているんじゃないか、って。
……おかしな話だろう?
もしかしたら、こうして俺が魚たちを飼っているように、俺らも誰かに飼われているのかもしれない。
『この世界』という水槽の中で」
―――
―――
―――
「なんて、な」
時折吹く風が、二人の頬を撫でる。
お互いに大分伸びた髪の毛が靡いた。
夏の、匂いがする。
「小難しい話が好きだねぇ、鬼道クンは」
「……かもしれないな」
「ま、」
不動はひょいと部屋に身体を戻すと、うーんと大きく伸びをした。
「どっちでもよくね?ンなこた」
「………」
「とりあえず、あちぃ。そんだけだろ」
「……ふっ、」
「なぁ、アイス買い行こうぜ」
「はははははっ」
「あんだよ」
「ああ、そうだな、行こう」
――世界がどんなもんだって、そんなのどうでもいいだろ。
――今、その時が楽しいか楽しくないか。
――そんだけでいいんじゃないか?
――ねぇ、なぁ、そうだろ?
『そうだな』
鍵を閉める。
扉は一つ。
出るのは二つ。
そう、ここが。
ボクラノセカイ。
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