もちもの2

□稀瑠しぐれ様より☆おれのことすきだろ
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練習が終わって更衣室で着替える。
監督にフォーメーションについて質問をしに行っていた俺は着替えるのが遅くなってしまった。
円堂や豪炎寺に先に行って良いと告げ、一人寂しく着替えをしていると、ドアが開く音がした。
振り向いたらそこにいたのは泥だらけの不動だった。

「…どうした。」
「鬼道くんには関係ないね。」

おおかた一人で特訓をしていたんだろう。
不動はそう言う奴だと最近分かってきた。
隣で着替えを始めた不動を横目に、ユニフォームを脱ごうとした。
何かに引っかかって脱げない。
じたばたしていると不動が隣でため息をついた。

「馬鹿じゃねぇの…。そんな頭してっからだろ。」
「う、うるさい…!」

恥ずかしくて死にそうだ。
不動は俺を馬鹿にしながらもユニフォームを引っ張ってくれた。
顔を上げると至近距離で不動と目があった。思わず赤くなってしまう。
不動はそんな俺を見てニヤリと笑った。
するり。
不動の手が俺の体を滑った。
ぞくりと悪寒が走る。

「や、止めろ…!」
「嘘付け。キスして欲しいくせに。」

不動は強引に俺の唇を奪うと、そのまま床に押し倒した。
首筋に舌が這う。
しっかり手首を押さえられて抵抗が出来ない。
噛みつくようなキスが痛い。

「ふど、や、止め…っ。」
「やなこった。」

このまま事に及んでしまうのか、と思ったそのとき。
遠くから声がした。
どんどんこちらに近づいてくる。
不動の力がゆるんだので俺は素早く起きあがった。
こんな所で上半身裸の俺が不動と居ると何だか誤解をされそうで(誤解ではないのだが)俺は慌てて不動と一緒にロッカーに入ってドアを閉めた。

「ちょ、鬼道くん馬鹿じゃねえの!何でこんな…!」
「黙れ不動!俺の判断ミスだと言うことは分かっている。皆まで言うな。」

それよりもこのロッカーに二人も入れたことに驚きだが、不動は納得行かないようだ。

「何でこんな狭いとこに隠れたんだよ。」
「皆まで言うなと言ってるだろう。」
「…。」
「入ってきたぞ。」

ロッカーの小さな隙間から外を見る。
がちゃりとドアを開けて入ってきたのは、綱海と立向居だった。
なにやら綱海が立向居を慰めているようだ。

「そんな根詰めんなって!今日だって結構良い線行ってたじゃねえか!」
「でも、俺…。」

そう言えば最近一年生で集まって、立向居の必殺技の特訓をしていた。
なかなか完成しないらしいく、立向居は相当落ち込んでいた。

「鬼道くん、狭い。」
「我慢しろ。」
「ちっ。」
「舌打ちをするな。」

文句を言う不動を黙らせて、綱海と立向居の様子を見る。
早くロッカーから出たいのだが、どうも出れる状況ではない。
綱海は立向居の頭を撫でながら言った。

「俺は頑張ってるお前が好きだぜ。きっと出来るって。な?だからそんなに泣きそうな顔すんじゃねえ。」
「つっ、綱海さん…。」

綱海は立向居の涙を拭ってからにこっと笑った。
立向居は感激した様子で綱海に抱きつく。
それからお互い見つめ合って、そっとキスを交わした。
俺は勢い良く目を背けた。
何だかどきどきしてしまう。
他人がキスしているのを見るのなんて初めてだ。
不動はそんな俺を見て笑った。

「純情だねえ?」
「っ、うるさい。」

不動の指がそっと頬を伝う。

「顔熱いよ、鬼道くん。」
「そんなことはない。」
「ああいうキスして欲しいとか思ったんだろ?」

クスクス笑う不動。
殴ってやりたいが狭すぎて出来ない。

「立向居、やっぱりお前が大好きだ!」
「俺も、です。」

お互い頬を赤く染めて、二人は楽しそうに笑いあっていた。
それから着替えて出て行った。
俺はしっかり確認してからロッカーから飛び出した。
あとから不動も出てくる。
ロッカーを見ると本当に狭くて、今更だが不動とここに入っていたのかと思うと恥ずかしくなった。良く思い出してみれば結構な密着具合だった。
顔が赤くなってしまったので、不動に背を向ける。

「鬼道くん、こっち向いてみ?」
「な、なんだ。」

からかわれるのかとちょっとにらみながら振り向くと、吃驚するくらい優しくキスされた。
いつもの噛みつくようなキスではない。
そっと唇が離れる。
不動は驚く俺を楽しそうに見た。

「俺のこと好きだろ、鬼道くん?」

不敵に笑う不動が憎らしい。
それでも首を横に振れないのは、なぜなのだろうか?



*おれのことすきだろ


Fin.
→感謝の言葉
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