もちもの

□温もりの優しさ☆あまおう。様より
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珍しく円堂が学校に来ていない。
朝のHRが始まっても姿を現さない円堂に不安が募っていく。一体どうしたのか。まさか事故などにはあっていないだろうか。どこかで倒れていたりはしないだろうか。
姿が見えないというだけで膨らんでいく不安。滅多に学校を休んだりしない奴なだけに心配になってくる。
「なあ、円堂の奴どうしたか知ってるか?」
やむを得ず、HR終了後鬼道に尋ねてみる。何となくだが、鬼道なら知っている気がした。
「――いや、俺は知らないな。寧ろお前が聞いているのかと思った」
首を小さく横に振った鬼道に何故かホッとした。――何故だか分からないが。
「円堂君なら今日は休みみたいよ?」
いつの間にか近くにいた木野が心配そうに微笑みながら言った。
「休み?」
何でまた、と心の中で呟く。到底休みそうにない奴だから、恐らく些細なことでは休んだりしないだろう。
「高熱が出たみたいよ。今日の朝円堂君のお母さんから電話があったの」
「なら今日の部活は円堂抜きだな」
「……ああ」
「……お見舞い、行ってくるか?」
何とも乗り気じゃなさそうな俺の返事に鬼道は呆れたようにそう提案した。
「良いのか?」
「どうせ円堂が気になって練習に身が入らないだろう? いいから行ってこい」
何もかもを見透かしたように言う鬼道に、敵わないなと思いながらコクンと頷いた。


放課後、俺は部活には出ずに円堂の家へと向かっていた。 サッカー部の奴らには鬼道が上手く言ってくれるみたいだ。
初めて訪れる円堂の家に、俺は少し緊張しながらインターフォンを押した。 ピンポーン…と小さくエコーをかけながら家の中に響いていくチャイム音に、柄にもなく心臓がバクバク鳴っていた。 バタバタと騒がしく近づいてくる足音に、更に鼓動が速くなった。
「どちら様で――豪炎寺!?」
「円堂!?」
ドアが開いたかと思うと、顔を覗かせてきたのは円堂だった。 何で、と呆然とした頭で考えようとするが、円堂の体調を思い出して慌てて駆け寄った。
「おい円堂! お前熱あるのに大丈夫なのか!?」
「んー…。朝よりはだいぶ下がったけど…。まだちょっとダルい、かな」
「なら寝てなくちゃ駄目だろう」
ピトリと熱い額に手を置くと、円堂は気持ち良さそうに目を細めた。 冷えピタも貼らないで…と顔をしかめるとヘラッと笑顔になって返した。
「今母ちゃん買い物に行ってて俺以外誰も居ないんだよ。それに冷えピタ貼り変えようと思ったところに豪炎寺が来たから…」
……全部俺のせいか。
尚も笑顔の円堂にゴホンと咳払いを一つして頭をそっと撫でた。
「……早く中に入るぞ円堂。俺が見ててやるから」
微笑みながら言う俺に円堂は嬉しそうに笑って「おう!」と可愛らしく言った。


熱い額にペタリと冷えピタを貼ると、円堂は気持ち良さそうに笑って礼を言った。それが何とも可愛らしくて思わず微笑み返すと、円堂はより顔を赤く染めた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ!! 平気平気! 心配すんなって」
熱を出している時点で平気ではないと思うが…。そう心の中で呟くが敢えてツッコみはしない。
「腹減ってないか?」
「うん大丈夫。でもちょっと喉渇いたかも…」
スポーツドリンクが近くにあったのでコップに注いで飲ませようとする。――が、円堂は飲もうとしない。
「円堂?」
怪訝な表情を作って円堂を覗き込んだ。円堂は何かを企んでいる子供のような――可愛らしい笑みを作っていた。
「なあ、豪炎寺が飲ませてくれよ!」
「は!?」
すっとんきょうな声を上げるが、円堂は更に嬉しそうな笑顔を深めるだけだった。
「駄目、なのか?」
熱のせいなのか潤んだ瞳で俺を見つめてくる円堂の頼みを断るなんてこと、俺が出来る筈なかった。
「…仕方ないな…」
一つ溜め息をつくと、覚悟を決めてグイッとスポーツドリンクをあおった。飲み込まず、口内に溜めたままのスポーツドリンクを円堂に与えるため、火照る円堂の頬をしっかりと掴んだ。 今更慌て出す円堂を視界に収めると、唇と唇の距離をゼロ距離までに縮めた。
少し温くなったスポーツドリンクを円堂の口に流し込むと、漸く抵抗を諦めたのか大人しくなった。





温もりの優しさ






(…本当にやるなんて思わなかった…)(嫌なのか?)(……嫌じゃない、けど)



fin
→お礼の言葉
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