もちもの

□稀瑠しぐれ様より☆かわいいじゃねぇかよ
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「第一回!夏だし肝試ししようぜ大会!」

と円堂の大きな声が響いて、それは始まった。
何やら近くの墓地で肝試しをしようと言うことになったらしい。
二人でペアを組んで、手を繋いでいく。
手を離しているところを目撃された場合、やり直しでもう一周という過酷なルールの元、行われる。
チームワークを深めると言うもっともな理由がついているが、実際の所効果があるがどうかは不明である。
俺はそんなにお化けやら何やらを信じているわけではないが、墓地は昔から苦手だった。
両親を少しでも思いだしてしまうからだ。
しかし嫌だと断るわけにもいかず、春奈の嬉しそうな笑顔に後押しされ俺は今スタート地点にみんなと集まっているのだ。

「うう…僕結構お化けとか苦手なんだよね…。」

顔を少し青ざめさせているのは吹雪。

「うっしっし!俺はそうでもないけどなははははははは!」
無駄に高笑いをしているのは木暮。
その二人が異常に顔を青ざめさせている他は、みんな嬉々とした表情でいる。

「はあい!くじを引いて!」

木野が持っている箱から紙を取り出す。
それには4と丸っこい字で書かれていた。

「同じ数字の人と組んでね。」

みんながぞろぞろとペアを作っていく。
円堂と豪炎寺、風丸と緑川、基山と木野、木暮と春奈、立向居と綱海…。
どんどんペアが決まっていく中、俺の相手がなかなか見つからない。

「俺は誰と…。」

少し不安になっていると遠くから声が聞こえた。

「よんばぁん!」

声の方に駆け寄っていく。

「俺だ。」
「おう、お前かーって…。はあぁ?」
「っ…。不動…。」

何か悪いことでもしたのだろうか。
俺の相手は不動明王、その人だった。

「ちっ、鬼道ちゃんかよ。」
「…それはこっちの台詞だ。」
「俺、帰るわ!」

不動はくるりと俺に背を向けて帰ろうとした。
するといきなり背後から誰かが俺と不動の手に手錠をかけた。

「なんだこれ!」
「帰っちゃ駄目ですよ?不動さん。だってこれはチームワークのためなんですもの!」

きらりと鍵を光らせて立ちふさがったのは春奈だった。
相変わらず妙な特技を持った妹である。
高速手錠かけとは。

「意味分かんねえ!何で手錠だよ!」

不動が喚くがそんなのもお構いなしに春奈はにっこり笑って言った。

「逃げないって誓うんなら良いですけど?無理ですよね?だからちゃんとゴールしたらとってあげます。お兄ちゃんも良いよね?」
「…ああ。」
「!?鬼道ちゃん良いわけねえだろ!言えよ!」

不動よりも怖いのは妹だ。


「では、始めたいと思いまーす。」

春奈が指揮を執って説明を始めた。
他にみんなに手錠どうしたんだよと聞かれたが、苦笑いで返した。

「では、一組目どうぞ!」
「おう!行ってくるぜ!」

円堂たちが出発。
それから次が五分後だ。
三組目が出発して、そろそろ俺たちの番である。

「鬼道ちゃん、手。」
「ああ。」

きつく握ってくるかと思ったが、全く違う優しい握り方だったので、俺はちょっとびっくりした。

「はい、いってらっしゃーい!」

春奈が満面の笑みで送り出してくれる。
じゃらっと手錠が鳴った。


あたりは思いの外真っ暗で、なんだか心細い。
遠くの方で木野の声らしい悲鳴が聞こえたりする。

「ほら、ちんたらしてんじゃねえよ!行くぞ!」

不動に引っ張られるようにしてどんどん進んでいく。
結構進んだのになにも起こらないのが逆に恐ろしい。

「鬼道ちゃんびびってんの?」
「…そんなことは…。」
「手、震えてるけど?」

言われてみれば手が震えていた。
そう言えば帝国時代、ミスをすると影山に真っ暗なところに監禁されたりした。
意識では怖くないと思っていても、体が覚えているのだ。
暗闇で折檻を受けて痛かったことや辛かったことを。

「総帥だろ。」
「お前には関係ない。」
「はいはい、そうかよ。」

不動はわざとらしくため息をついて、また前を向いた。
そしてどんどん進んでいく。

「うわっ!」

いきなり何かつるんとしたものを踏んでバランスを崩した。

「ちょ、お前なにしてんだようわぁ!?」

手錠で繋がっている不動も当然道連れだ。
手錠のせいで上手く受け身がとれない。
このままでは足をひねってしまう。
そう言えば暗闇の折檻の時も足を取られたときがあったな…。
折角、解放されたのに俺はまだ…。
そう思った瞬間。

「この馬鹿っ…!」

不動が俺の手を引いて、俺は不動に方に倒れ込んだ。
「ってぇ…。」
「ふ、不動…!」

がばっと顔を上げると目の前に不動に顔があって、なぜか顔が赤くなってしまう。

「重い…。早くどけよ鬼道ちゃん…。」
「っ、すまん…!」

急いで不動の上から退く。
起きあがった不動に大きな傷がないか確かめた。
どうやら肘をすりむいただけのようだ。

「無事か。」
「いてえ。」
「何で俺を…かばった?」
「自意識過剰だな?手錠のチェーンの所が引っかかったんだよ、馬鹿。」

そう言って不動は立ち上がってしゃがんだままの俺に手を差し伸べた。
そっぽを向いて、少し顔を赤らめているように見えるのは気のせいだろうか。

「さっさと帰るぞ鬼道ちゃん。俺はお前と一緒になんか居たくねえんだからな。」
「ふん、俺もだ。」

まだ赤い顔で、俺は不動の手を取った。

「ちっ、可愛いじゃねえかよ馬鹿。」
「?何か言ったか?」
「何でもねえよ!」

俺たちは手をしかと握ってゴールした。
暗闇も少し怖くなくなったような、そんな気がしてしまう俺は単純だなと思った。



*かわいいじゃねえかよ



fin
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