もちもの

□あまおう様より☆離れたくない、と
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だいぶ前から話し合ってきた。
だから、いつかはその時が来るんだろうと、覚悟はしていた――つもり、だった。
"つもり"だっただけで、本当は覚悟なんて出来ていなかったのかもしれない。
まだ黙っておこうと思っていたのに、円堂にこのこと――サッカーをやめて医者になる勉強をするため、ドイツへ留学すること――を話してしまったのも、俺に"覚悟"がまだ出来ていなかったせいに違いない。
本心では、俺はまだサッカーを続けたくて。でも父さんには逆らえない。だから、円堂ならば――夕香の事故のあと、サッカーから身を引いていた俺でさえ引き戻した程のサッカーバカである、円堂ならば、父さんに逆らえるような勇気を与えてくれるのかもしれない。 きっとそう考えてしまったのだろう。
だが、やはりそんな考えは甘かった。
父さんが言うには、円堂が直接病院に行って頭を下げたらしいが、それを見ても父さんの考えは変わることは無かった。
緑川や基山たちと同じく、元エイリア学園のバーンもとい南雲、ガゼルもとい凉野、エイリア学園と戦っている時に、僅かな期間ながらも仲間として共にプレイした亜風炉。その三人が所属していた、アジア予選決勝の相手、韓国を撃ち破ってアジア代表に決まったその時。
俺は皆を世界へと連れていくことが出来たことと、皆で何とか最後の試合に勝てたことによる達成感に包まれていた。
チームのメンバーが歓喜しているのは勿論――他の奴らは気がついていなかっただろうが――、あの久遠監督までもが嬉しそうに微笑んでいたのには驚いた。
だから、そんな光景を見て、自分の心が酷く冷めていくのが恐ろしかった。
何だかもう自分には、このイナズマジャパンに居場所は無いような錯覚に襲われた。
まだ監督が俺の代表辞退のことは皆に話していないから、アイツらにそんなつもりはないのだろうが。

「――豪炎寺」

円堂が皆の輪から外れて俺に声をかけた。
悶々と考え込んでいた頭を一度軽く振り、円堂へ顔を向けて「何だ?」と聞いた。

「…ちょっとあっちで話さないか?」

否定する理由も無いので頷くと、歓喜の渦に包まれているメンバーから離れて、人気の無い通路に立った。
「どうした?」と問いかけて円堂を促すと、ギュッと強く手を握り締めた円堂が、今にも泣き出しそうな顔をして俺の目を見た。

「俺…っ! やっぱり豪炎寺と一緒にサッカーしたい…。まだまだ一緒に居たいんだよ!!」

無理矢理言葉を絞り出したように言った円堂の顔は痛々しく、見ている俺の方が泣き出しそうになる。
同時に、円堂が今言った言葉は予測していたものであり、心のどこかで言って欲しいと願っていたものだった。
込み上げてくる衝動を、グッと握り拳を作って抑える。
俺だってまだお前たちと一緒にサッカーをやりたい…! そして、まだ円堂と一緒に居たい!
――そう叫びそうになるのを堪えて、無理矢理な笑顔を作り上げた。
「俺が居なくなっても変わりはちゃんと入ってくるさ」……我ながら嫌なことを言ったと思う。
だが、あながち間違いではなかった。
俺が居なくなっても新しいメンバーがそこに投入される。まるで俺の居場所を消し去るかのように。
泣きたくなるほど嫌だったが、それは仕方のないことだった。

「違う!! 何でそんなこと言うんだよ! 俺は、俺は――」

叫ぶように反論した円堂の言葉尻が怪しくなったのを不思議に思い、円堂の顔を見やる。

衝撃を受けた。

一度も見たことが無かった。
仲間に裏切られても、どんなに辛い目にあっても泣かなかった。
そんな円堂が、泣いていた。

「俺は、豪炎寺と一緒に居たいんだよ…」

言い終わると同時に強く抱きついてきた円堂の背中を抱き返して、俺は円堂の肩を熱いなにかで濡らした。




離れたくない、と




(そう今更思ってしまう俺は何て…)




fin

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