アイテム2

□暇を持て余した家政婦の遊び
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■□■□



「―――」

ふいに頬に触れた温かさに、不動はうっすらと目を開けた。

「悪い、起こしたか」
「……痛ぇ」

傍にいたのは鬼道だった。
周囲を見回すと、ここは不動と鬼道――二人共同の部屋で、不動は自分のベッドに寝かされていた。

「駆け付けた救急車で、一通りの治療はしてある。少し痛むかもしれないが、試合に出られない程ではないそうだ。動けるようになったら病院に数日は通うようにと医者がいっていた」

「…………」
 
不動は寝返りを打った。痛む右肩を上に、ベッド脇に座る鬼道に背を向けるかたちで。
 
廊下の外では他の皆で先の騒動の後片付けをしているのか、騒がしかった。

「災難だったな」
「……クソ。あンの野郎、」

「本当に、あの人は何とかならないのだろうか……ああ、そういえば布団と毛布は一応出来るだけ乾かしたのだが、湿ってないか?」
「別に。そんなの気になんねぇ。ってかアイツらに今回のはどう伝わってるんだ?」

「表向きは火災報知機の誤作動、ということになっているが、裏ではガルシルドの陰謀か何かではないということになっている」

「へぇ。で、俺の怪我に関しては?」

「……滑って転んだ、ということに――」

「はァ!?」
「すまない」

「ンだよ!それじゃあ俺がまるでただのドジっ子じゃねぇか!?」

「仕方がないだろう!?それ以上にいい理由を思いつかなかった!」

「だったら何も言わなきゃよかっただろ!?」

「そうかもしれないが、もう遅い」
「お前、わざとだったろ」
「そんな訳あるか」
「いいや、そうだ」
「違う」
「そうなんだろ」
「そうじゃない」
「嘘つけ」
「嘘じゃない」

ぎし。
座っていたベッドから、鬼道が立ち上がった。
不動もつられて上半身を起こす。
鬼道はこちらに背を向けたまま、口を開いた。

「……助けてくれたこと、本当に感謝している。今までは、もちろん抵抗はしていたけど、どこかで無駄だって諦めていた……しかし、お前のおかげで立ち向かう強さを思い出した……俺達はまだ立ち向かえるんだ、ってな」

「フン……」
「不動……」


鬼道が振り返る。
おもむろにゴーグルを外し――優しい、目。


「ありが――」
「!?」


鬼道が口を開いたまさにその瞬間!
ヒュンッ!――どす。
二人の間を――窓は閉まっているし、どう考えても不可能な角度なのに――高速で何かが通り過ぎ、壁に突き刺さった。
痛みを感じながらも、布団を跳ね除けて、壁に突き刺さったものを引き抜いた。それは一本の矢に細く折られた紙が結び付けられた、『矢文』だった。
不動はそれを解くと、広げてみせた。


「なんなんだ……?」
鬼道が横からのぞき込んでくる。
そこに書かれていたのは――

「…………」
「…………」
 
彼らの心労は、まだ止むことはなさそうだった。

 


                   
Fin
→あとがき。
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