アイテム2

□台風
2ページ/7ページ

† † †

がたがたがた。

窓を揺らす音に目を覚ます。
不動はむっくりと身体を起こした。
何だかいつもよりすっきりしない――原因は窓の外を見れば明白だった。
そうだ。今日は台風がくるという。
厚い暗雲がどこまでも広がっていて、朝だというのに夜を迎える前のように薄暗い。
その上窓が揺れる音に加えて強風に煽られて飛んでくる大粒の雨や、時折それに巻き上げられて宙を舞っている小枝が窓に当たってばちばちと音を立てていた。
この調子だと今日のチーム練習はないだろう。昨日のミーティングで監督がそう言っていた。
他のメンバーはまだ起きていないのか、周囲はずいぶんと静かだった。
――と、隣のベッドに視線を向ける。

「……あいつ」

同室のチームメーカー――鬼道の布団は綺麗に整えられ、持ち主の姿は見当たらなかった。
別に彼がどこに行こうと関係はないのだが、気にかからないかというと嘘になる。
その思いを断ち切るように不動はかぶりを振ると、早めの朝食をとろうと部屋を出た。
今日が休みという連絡がいっているのか、各部屋の電気は点いていたり消えていたりだった。食堂にはまだ誰も来ていない。いるのは食事をつくっているマネージャー達だけだった。

「あ、不動さん」

大量のお握りを乗せたお盆を抱えた音無がカウンター横から出てきて、不動に気付き声をかけてくる。無言の会釈で返事を返した不動に、ああ、と音無が言葉を続けた。

「今日は一週間分の食材が届く日だったんですけど、台風で配送ができなくって今日の朝食はお握りとお味噌汁です。今日はそんなかんじで大したもの作れないですけど、我慢してくださいね」

そう言ってお盆をはい、と前に出され取るよう促される。不動はその中から適当なやつを二つ手に取ると、自室に戻ろうと踵を返した。
背中から音無の声がする。

「ちょっとー!不動さんどこいくんですか?味噌汁は!?お茶は!?元気でないですよー」
「いらね」

構わずに食堂を後にする。
本当に兄妹そろってイチイチうるさい奴らだ。
階段を上る途中で食堂に向かうだろう風丸、豪炎寺の二人とすれ違う。
風丸の睨むような視線を一瞬だけ感じたが、気にせず通り過ぎた。

「不動……一緒に食べるか?」

背後から、声。豪炎寺のものだ。
風丸の「なっ……!?」という声も同時に聞こえたが気にしないことにする。

「遠慮しとく」
「そうか」

あっさりと声は引き下がり、再び階段を下る音。
不動は自室に戻った。
鬼道はまだ部屋に戻ってきていないようだ。
よく一緒にいる豪炎寺と一緒ではないようだ。ということは、円堂の部屋だろうか?
そういえば円堂は誰と一緒の部屋だっただろう、忘れてしまった。
外は相変わらずの暴風雨。がたがたばちばちという音が眠るにはうるさ過ぎる。
特にやることが浮かばなかった不動はぼすん、とベッドに仰向けになった。
眠れはしないが、目を閉じる。
瞼の裏に映るのは、闇。
そこに浮かんだのは――腑に落ちないが、彼の姿だった。

(――なんだよ、クソ)

忌々しくなって、目を開ける。
――本当に、忌々しい。
人の思考に勝手に入ってきやがって。(思い浮かべたのは不動自身なのだが)
この奥歯に物が詰まったようなもどかしさからの脱却を求め、不動はベッドから身を起こした。

(別に、アイツのことをどうか思ってるわけじゃねぇ)

言い訳のように自分に言い聞かせる。それに何の意味があるわけはないのだが。
部屋を出る。まだ朝食には早い時間だからか、廊下に人の気配はなかった。
おそらく、食堂には先ほどすれ違った豪炎寺と風丸以外はいないだろう。誰かが廊下を通れば、気にさえしていれば容易に足音や気配を感じることはできた。

(確認するだけだ。それができりゃ、後は知らねぇ)

どうせこの天気だ。
この宿舎の中にいれば見つけるのにそう時間はかからないだろう。

(――まぁ、こン中に居れば、だけど)

嫌な予想はいつだって当たる。
とりわけ、彼に関することは特に。
いつだって彼は不動の予想通りのことをして、
そして、予想より悪い結末を持ってくる。

(わかりやすいんだか、わかりにくいんだか……)

どちらにしろ、めんどくさい奴である。本当に。
特に行先を決めているわけでもなく、階段を降りる。とりあえず、風呂場でも見ておくか。

(……浮かんでるかもしれねーからな)

冗談ではなく。
本気になればそのくらい本当にやりかねない奴だと不動は理解していた。
階段を降り終えて、風呂場のある方へ曲がろうとしたその時。

「――!」

向こうから走ってきた音無の気配に全く気が付かず、不動は彼女と盛大にぶつかった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ