アイテム2

□神のみぞ知る
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「――!?」

その言葉に、全身が凍りついたように硬直する。
呼吸が止まった。

「……なんてな」

すっと不動の身体が離れる。とたんに身体の自由が戻り、身体に熱が戻るのを感じる。
だがすぐに起きあがることはできず、鬼道は倒れたままこちらを見下ろす不動の顔を見た。

「動揺が表に出すぎだ、鬼道ちゃん。そんなんじゃすぐ誰かに取って食われんぞ」
「……お前は、かまってほしいなら素直にかまってほしいと言え……」
「勝手に言ってろ」
「そうさせてもらう」

ゆっくりと上体を起こし、鬼道は床に広げた用紙をたたみ始めた。

「なんだよ、もう寝るのかよ、作戦は?」
「明日の朝考える。……今夜は集中できそうにないからな」
「しょっぼい集中力だな」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「さぁ?誰だかね」
「――はぁ」

ため息をついて、ベッドに潜り込む。
不動もしぶしぶとベッドに入ったのを確認して、鬼道は部屋の電気を消した。


――考えてしまった。
不動が裏切り、此処から消えていなくなることを。
それは想像以上に辛い事で、今の自分では耐えられそうもなかった。
もう、二度と経験したくない。
裏切ることも、裏切られることも。


「――おい」
反対側のベッドから不動の声が、鬼道の思考を中断させた。
「なんだ」
態勢をそのままに、鬼道は壁を見つめたまま返事をする。

「……さっきのこと、気にしてんのか?」
「何の事だ」
「俺がお前を裏切ってやろうか、って話」
「…………ああ」

少し悩んだが、ここで嘘をついても意地を張っても何の意味もない。
そう思った鬼道は素直に不動の問いに肯定した。
その返答に、不動が満足そうに鼻をならすのが聞こえた。

「安心しろよ。そんな遊びに付き合ってられるほど俺はヒマじゃねぇからな」
「……そうか」
「お前こそ、とち狂ってどっかいなくなるんじゃねぇぞ」
「――――」



そうか。
恐れているのは、俺だけじゃない。
不動も――



何時の間に形成されていた、不思議なカタチの絆。
言葉が交わることはない。
心で交わる思いやり、温かさ。


「――ああ……明日、早く起こす。おやすみ、不動」


おやすみの代わりに、けっ、と少し不機嫌そうな不動の声が聞こえる。
でもそれが本意ではないことくらい、今ならばわかる。




――おやすみ、不動。
また、明日。





暗闇の中。
二人の口端が緩んでいたことは、神のみぞ知る。



fin.
→あとがき。
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