もちもの

□きっとそうだ☆竹林様より
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まず、状況を整理しよう。

一、俺は練習の休憩時間、この木陰にやって来た。

二、心地よさにいつの間にか眠っていた。

三、起きたら何故か自分の膝を枕に豪炎寺が眠っていた。

以上。


整理するほどでもない。
とりあえずこの状況が理解し難いことであることは確かだ。

「おい、豪炎寺」

この状況を放置するわけにもいかない。
…とりあえず豪炎寺を揺すってみる。

「………………………」
「………………………」

なんで起きないんだ。

(豪炎寺は気配に敏感な奴だったはずなんだが)


そう、そして自分も。


(おかしい。人がこんなに近くに居たのに、気がつかないなんて…)

挙句、膝に乗られるなんて。
そんな、こと。
ありえない。

(だって、そうでないといけなかった)

帝国に居た時は、源田に『おまえは忍者か!』と言われたことまである。
人の気配にはいち早く気付き、自分の気配は感じさせない。
『匂いがする』とか言って、佐久間にはバレてしまっていたけど。



『サッカーやろうぜ!!』



(……円堂は、気配を隠す、なんて事知らないんだろうな)

必要無かったんだろう。
あの、サッカー馬鹿には。

帝国に居た時は、それが、羨ましかった。
…少しだけ。

(あの時は、こんな事になるなんて思ってなかった)

自分が雷門イレブンを名乗る様になるなんて。
あのサッカー馬鹿と、同じグラウンドに立つなんて。
豪炎寺のデータを取るためだけの場所が、自分の場所になるなんて。

「…………思っても、みなかった…な…」

自分を隠して、帝国を主張して。
ただ勝利の文字だけを求めて走っていたグラウンド。
傷も汚れも無い、ただの勝利。

(……それが、)

雷門の名を背負って、自分と、仲間で。
ただ相手とサッカーを楽しむために走るグラウンド。
傷と泥にまみれた本当の勝利。

仲間も
環境も
そして、自分も

「…変わってしまったな…」

自分を取り巻くものが、こんなにも。


「嫌なのか」


聞こえた声に顔を俯けると、全てを見透かすような目で豪炎寺がこちらを見つめていた。

「…寝てたんじゃないのか」
「寝てはいない。休憩はしていたが」

なんだそれは。

「……それで、嫌なのか」

もぞもぞと、膝の上で豪炎寺が体の向きをこちらに向ける。
つんつんと硬そうで意外と柔らかな髪が、太腿に擦れてくすぐったい。

「何がだ?」
「変わることが」

す、と切れ長の目を細める豪炎寺。
一瞬、心の中を全て見透かされたようで、顔を背けた。

「……嫌、というわけでは」
「…………なら、」

ぐ、と顎を掴まれて、目を合わせられた。
豪炎寺の目が、真っ直ぐ自分を見ていた。

「恐いのか」
「…………」

恐い、なんて。
考えたこともない。
けど、何故かすごく納得した。
正しいところに綺麗にストン、とその言葉が落ちてきた。ような気がする。

「図星か」
「……その眼、止めてくれないか」

す、と目だけを逸らす。
ゴーグルをつけていたから、豪炎寺にはわからなかったも知れない。

「何が」
「…見透かされているようで、」
「嫌か」
「心を読まれていい気分のする奴はそうそういない」

時と場合によるが。

ふむ、と一瞬間をおいて、豪炎寺が目を閉じる。
顔を固定していた手も離してくれた。
ほ、と安堵の息をつくと、また下から声がする。

「いいんじゃないか」
「……何がだ?」

円堂もそうだが、豪炎寺もなかなか話の先が読めない。
もちろん、円堂とは違う意味でだが。
この場合、「変わること」なのか「恐い」ということなのか。

「おまえが嫌なら考え物だが、そうでないなら…変わることは、悪いことじゃない」
「……………」
「そして、恐がることも」
「…やはり、恐いのだろうか」
「………」

小さな声で返すと、豪炎寺がまた目を開けた。

「恐い、のだろうか」
「…さぁな。ただ…『一歩』には少なからず勇気がいる」
「………」
「そして、きっかけも……俺もお前も、きっかけは同じだろう」
「…………そうだな」

能天気な声がする。
それが自分の想像からくるものか。
はたまた遠いグランウンドからくるものか、それはどうかわからないけど。

「…円堂には困ったものだ」
「そうだな」

二人で空を見上げて、それから笑う。
こんな風に豪炎寺と笑うのも、変わった証拠だろうか。



「豪炎寺」
「なんだ」
「……ありがとう」
「………………」

こんなに自然な笑顔でありがとうを言うのも、久しぶりかもしれない。
しかし、冷静なあの豪炎寺が目を精一杯に見開くところを見ると、自分としては羞恥心を持たずにはいられない。

「…なんだ、礼を言って悪いか」
「いや…ただ……今の顔を帝国の奴らが見たら俺が睨まれそうだ」
「はぁ?」

不可解な事を言う豪炎寺に眉を顰めると、何の前触れもなしに豪炎寺が半身を起こす。

「鬼道、前から思っていたんだが」
「………、な、んだ?」

急なことに呆気にとられて、少し反応が遅れてしまった。
そうこうしているうちに、いつの間にか目の前にある豪炎寺の顔。

「そのゴーグル、邪魔じゃないか」
「な、ん…」
「キスするには」
「っ!?」

豪炎寺の手が、今度はゴーグルにかかる。
それを止める声も手も出ないなんて。



これも、俺の変化、のせいだ。
きっとそうに決まってる。









(鬼道、顔が赤いぞ)
(これはおまえの所為だっ)




fin

→感謝の言葉
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