書物庫
□陽光 ―ようこう―
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ぱしゃり、ぱしゃり。水の雫が散る。
光を反射してきらきらと輝いて、虹のかけらが降ってきたみたい。
わざと水面を波打たせるように裸足の足で水を蹴りながら、ときに手で水をすくって周りに撒き散らしながら波打ち際を歩いてるマルタは、淡い色のワンピースのせいか、まるで光を連れてきた精霊みたいで。
綺麗すぎて怖い、って。こういうことを言うのかな、なんて思う。
僕は少し離れた砂の上で見てたんだけど、動いたらその瞬間にもマルタが掻き消えてしまいそうに思えて、身動きが取れない。
でも、ほっといたらどんどん遠くに行ってしまいそうな気もする。
手を伸ばしたいのに、伸ばせない、そんな苛立ち。
けれど、不意にマルタが突然僕の方を振り向いた。
「エミルもおいでよー」
「えっ?」
声を掛けられた瞬間、金縛りが解けたみたいに身体が動く。
「水。冷たくて気持ちいいよ?」
ほら、って言いながら、マルタがまた水をすくって僕の方に向かって振りまいた。
距離があるから掛かるはずはないんだけど、思わず手で顔をガードしてしまって、それを見たマルタが声をあげて笑う。
「わ、笑わないでったら! もう……」
「えへへ、ごめんごめん。ねえ、来ないの?」
マルタが手招きしたけれど、少しだけ腹が立ったから、行かない、って首を振った。
そうそういつも甘やかしてたまるもんか。
「えええ……。あれやりたかったのになあ……」
「あれ? あれってなに?」
マルタの言う“あれ”が分からなくて、尋ねてみる。そしたら、マルタは思わず見惚れちゃうくらいの満面の笑顔を浮かべて……ううん、もしかしたら僕のフィルターが掛かってるだけで本当は“にんまり”かもしれないけど。
「浜辺のお約束だよ! 捕まえてごらんなさ〜い、待てよこいつぅ〜、ってあれ!」
言われて、思い当たる。前にアルタミラの海で見たバカップル。……あれか。
って、あれを僕とマルタでやろうって言うの!?
無理無理無理無理!
「だ、だめ! それはいくらなんでも恥ずかしすぎる……」
「楽しみにしてたのに……」
しょんぼりして言われてもだめなものはだめ。
周りにも人いっぱいいるのに、あんなのやってるところ誰かに見られたら、僕たちもバカップル認定くだされちゃうじゃない……!