書物庫
□春暖 ―あたたか―
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なんでもない一日の、昼下がり。
街の食堂兼宿屋でお昼を食べたあと、すぐに動くのはつらいってマルタが言うから、僕たちは玄関ホールに置いてあったソファに座ってのんびりしていた。
しばらくは旅の間に聞いたロイドやコレットたちの噂話とか、他愛のないことを話してたんだけど――たまに“もう一人”も顔を出したりして――、ふと会話が途切れた一瞬に、マルタがふいとむこうを向いた。途切れた視線に不安になって、思わず手を伸ばそうとした、そのとき。
突然、肩に温かい重みがもたれかかってくる。
「マ、マルタ……?」
「へへっ。特等席だね」
身体をもたせ掛けてきたマルタは、ひどく機嫌がよさそうに笑う。
僕も、その温かさに何だか安心してしまって目を閉じた。午後のぽかぽかした陽気のせいか、食事の直後だからか、油断すると本当に眠ってしまうかもしれない。
だったら、どこかしら身体を動かしていればいいのかな。そんな風に思って、宙に浮いたままだった手をなんとなく動かし始める。
きっと、その動作は無意識のものだったんだと思う。