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□日課 ―にっか―
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 こんにちは。私、アオイっていいます。あ、アルラウネです。
 つい先日、ラタトスクさまと縁を結び、旅のお仲間に加えてもらったばかりです。
 本当ならエイト・センチュリオンを介してしか縁を結ぶことはないというのに、直接ラタトスクさまとなんて、なんて素敵なんでしょう! ……どうして若輩者の私がずっと眠っていらっしゃったラタトスクさまのことを知っているのかって? 魔物の本質として魂に刻まれているのです。そういうものなのです。そこに疑問を持ってはいけません。
 ただ、ご本人は普段“エミル”と呼ばれていて、自分が魔物の王たるラタトスクだということを忘れていらっしゃるみたいですが……、お年だからボケてしまわれたんでしょうか?
 あ、いけませんね。不敬でした。気のせいか、闇のセンチュリオンがこちらを睨んでいるような気もします。
 ラタトスクさまには、人間とハーフエルフのお供もいらっしゃいます。魔物たちと同じようにコレットやらジーニアスやらゼロスやら一匹ずつ違う名前が付いているみたいですが、正直なところ私にはみな同じように見えるので、誰がなんという名なのかはよく分かりません。
 ただ、お一人だけは私も覚えています。その方はマルタさま。ラタトスクさまがいつも護って、一番大切にしていらっしゃる方のお名前です。人間の感覚は理解できないのですが、あのゆらゆら揺れる長い髪にはなんだか心惹かれます。触手みたいで、獲物を捕まえるときにも便利そうじゃありませんか?
 マルタさまは人間なのに、私たちが戦いで傷を負ったときにも同じように癒してくださるし、美味しいご飯も作ってくださるし、ぎゅーっとして撫でてくださるし、とっても優しいので大好きです。人間の、お母さん、ってこんな感じなんでしょうか。ラタトスクさまの大事な方でもあるので、私も一生懸命お護りしようって思ってます。
 ラタトスクさまと縁を結んだ、私以外の魔物たちも、マルタさまのことを気に入っているみたいです。フェニアのセラフィさんは戦いの最中にマルタさまがお倒れになると、他のことをしていてもすぐに“神火・陽炎”でお助けしてますし、フェンリルのレキちゃんなんかは野宿の夜に自分からマルタさまの下に寝そべってクッション代わりになったりしてます。マルタさまは申し訳なく思われたのか最初のころはお断りになっていたそうですが、レキちゃんが押し切ったとか。……私、知ってます。マルタさまがありがとうって言ってレキちゃんの頭を撫でたとき、レキちゃんがとっても嬉しそうな顔をしていたのを。きっとレキちゃんはああして撫でて欲しくてクッションになりにいってるんです。下心見え見えです。馴れ馴れしくしすぎだ、って、一度ラタトスクさまにお仕置きされてしまえばいいと思います。
 あ、――敵の気配がします。ちょっと失礼しますね。私もみなさんと一緒に戦わなくては!
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