予備小説箱

□頭の中に春が来ました
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寒い寒い冬。



貴方の微笑みは僕にとって


【頭の中に春が来ました】





「イヴェール」

優しく名を呼ばれ、僕は振り返る。
振り返るのと同時に読んでいた本をパタンと閉じた。
あ、しおり。
挟むの忘れた、まぁいいか。


「なに?」
「……いや、イヴェールがこんな難しい本を読めるとは思いんだが…」

ひょいっと手の中にある本を取られ、僕はぶぅと頬を膨らませる。

「酷いなぁ、僕だって読むよ!」

「でも意味、理解できてないでしょ?」

「う…、」

「ふふっ図星?…まったく」

サヴァンの大きな手が僕の頭をくしゃ、と撫でる。
暖かくて…僕は好き。


「サヴァン…くすぐったぃよ」

「イヴェールの髪の毛はサラサラしてて気持ち良いですから」


撫で撫で。


「……サヴァンの手は…暖かい…よ…」


あぁ、眠い。


「難しい本を読んで眠たくなったんでしょう。ゆっくり、寝なさい」

サヴァンの手は暖かい。
僕の手は冷たいまま。


僕は冬。傾かざる冬の天秤。


「サヴァン…の、手…は……春みたい……」


本当の春は知らないけど、聞いた話じゃ春は暖かくて優しいらしい。
だから、サヴァンは春。


「ゆっくり…お休みなさい」


すぅ、と寝息を健やかに立てるイヴェール。

「春みたい…か」

ぽつりと呟いて

「君の方が、適切だよ」

君は知らない。
私は

「私の春は君だよ」


頬を擦り寄せてくる幼子のような青年の頬に触れるキスをした。



08/12/24

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