永いような一瞬の風

□月光
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江戸から少し離れた場所で細々と商いを営んでいる小さな旅館の屋根の上で派手な着物を身に纏った人物が一人、酒を片手に風に吹かれていた。


明日の祭りのことをぼんやり考えていると、先程まで薄暗かった場所が明るくなり始め、人物は訝しむように辺りを見渡す。



明るくなった原因を探していると、杯に注いである酒にその原因たるものが映り、とっさに空を見上げた。




そこには、先程まで曇天のためお目にかかれなかった月の姿が。







月は嫌いではない。




むしろ、太陽なんかよりは好きな方だ。




ただ、



月を見ると、今は亡き自分の大切な人を連想してしまう。




それが少し嬉しくて悲しくて。




この腐敗した世界に産み落とされたのに絶望を感じていた自分を照らしてくれたのも、こんな暖かい光だったなと懐かしむように月を眺めた。






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