〜pray〜

□〜第七章〜 疑惑は時に惨事を生む
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「……隊、ちょ……止めて…」

「はぁ?俺には、全く止める義理がねェや。」

「いや…待、って……ッ……」

「もう待てやせん。ほら、さっさとしなせェ。」







「……お前ら、こんな所で何してんだ?」





玄関から聞こえてくる、気持ち悪い声に土方がひょっこり顔を出した。
そして、見てしまったその光景に、思わずそう突っ込まずにはいられなかった。


「何って…見て分からないんですか?見廻りに行こうとしていやす。」

「そうか、じゃあ、真姫の首についてるコレは何だ?」


玄関で既に見廻りに行こうとしている沖田と、少し離れた柱にしがみつく真姫。
いつもは逆のこのパターンなだけに驚きも大きいのだが、それよりも土方がまず目に付けた物は真っ赤で鎖の付いた…


「首輪でィ。」

「…それは見りゃ分かる。」

「じゃあ聞いてくンじゃねーや。マジで死ねよ土方。」

「何で真姫に首輪を付けてるかを聞いてんだろうがぁぁあぁ!!そしてお前が死ね総悟ォ!」


しれっとそう言い切った沖田に、怒りを通り越してため息がでる。
頭痛も感じたような気がして、土方は人差し指でこめかみを押さえた。


「だって、真姫、見廻りりに行きたくねェって言うんでさァ。俺が珍しく見廻り行くって言うのに…」

「あぁ?……そうなのか?真姫。」


ぶぅ、とどこの子どもだと言いたくなるような動作をする沖田が、悪事を告げ口するように真姫を指差した。
あくまで首輪を引っ張る力を緩めずに飄々と答える沖田のその言葉に、真姫は思わず抵抗を忘れてしまう。
それにより一気に真姫の体がズズズーッ!と玄関まで引きずられていくが、今度はその足下に貼られている床に爪を立てて踏ん張る。


「いッ、嫌です嫌なんですッ!!書類整理でも女中さんのお手伝いでもいいんで、見廻りだけは勘弁してくださいッッ!!」

「だから、いきなりどうしたんでさァ?心配なんかしなくても、ちゃんと土方のヤローがいなくなったら見廻りなんか止めて団子食いに行くって「それを本人の前でカミングアウトしてどーする気だ、テメェ…!!」


嫌だ嫌だと連呼する真姫を宥める沖田…。
完璧にいつもと真逆の展開をもうちょっと見ていたかったが、さすがに聞き捨てならない言葉を拾ってしまった土方は、すかさず待ったをかけた。


「あ、いっけね。口が滑っちまった。…ま、そーゆーワケで行くぜ、真姫。」

「今の話聞いて行かせれるかァアァ!!」


待て総悟!!と、憎たらしいクソガキの襟首を掴もうとした瞬間、今の今まで踏ん張っていた真姫がついに疲れ切り、勢いよく玄関から引き剥がされた。
その勢いに乗った沖田がスタートダッシュを図り、間一髪のところで取り逃がしてしまう。


「テメェら、ちょっと待てやゴラァ!!」


後を追うように門を出て走り出した土方だったが、すでに沖田と真姫は遙か彼方。

立てられた砂埃の向こうに消えた2人に、あからさまに嫌な顔をして舌打ちをした土方だったが、その後すぐに表情が曇った。


「……杉浦」


門の裏にいるであろう相手に声を掛ける彼に、自分より年下の子どもと言い争うような、先ほどの子どもじみた姿はない。

煙草に火を灯して門の柱にもたれ掛かる姿は、まさしく攘夷浪士が恐れる鬼の副長そのものだ。


「目標が動いた。後のことは…分かってるな?」


その言葉が空気を伝ってから数秒後、何事もなかったかのように着流しを着て土方の横を通り過ぎる1人の男。



土方の命を受けた、監察の1人だ。



それをチラリと横目で確認した土方は、目を閉じてゆっくりと紫煙を吐き出した。





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