〜pray〜

□〜第六章〜 誤解は早めに解かないと、後々大変
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言われたとおり5時に仕事を切り上げた真姫は、用意された服に身を包み局長室まで向かった。
自分の服がないのだと土方に言うと、憐れみの目で見られながら山崎のを使えと言ってくれた。
無いというか、いつも隊服で出勤するためただ単に忘れただけなのだが土方の表情から察する辺り違う意味で取られたのだろう。

…弁解はしなくても良かったのだろうか。

偵察で女装をもこなす山崎から拝借した着物は、薄いピンクに花が色とりどりについているもの。暗い道で見つからなかったら意味がないので派手めな物を着た。
帯をちゃんと結べているかを確認して、鏡の前で髪を隊服のスカーフで結び直す。
最初の頃はしつこく土方に怒られたものだったが、今では何も言われない。
真姫も悪いとは思うものの、こうしている方が仕事をしている実感があって好きなのだ。
着物にスカーフと言うのも変な気がしたのだが、いつも以上に気を入れて事に当たるので、気にしないことにしよう。


「用意できました。」


局長室の襖を開けた真姫が見たものは、狭くないはずの局長室に捜査に使うと見られる大型な機械に押しつぶされながら悪戦苦闘している近藤だった。


「あぁ、これが無線機だ。状況報告は隙を見てしてくれ、見つからないように。」


真姫に気づいた近藤が説明書みたいなのを広げてゴソゴソと袋を取り出した。
その中から手のひらサイズの黒いものを真姫に手渡す。長方形のそれは見た目の割には少し重く、スピーカーの先には赤い豆電球が付いている。
それをしげしげと見つめ、そっとポーチの中に入れた。


「あたし、もう出ます。地図を見せてください。」


近藤が差し出した地図をのぞき込む。
一番被害が多いのは、ここから10分もしない内にたどり着く裏道。
万事屋とは反対方向なので、迎えにきた銀時と鉢合わせる事もないだろうと踏んで、今日何回目か分からない不安と安堵が混じったため息をついた。
自分が行くべき場所を確認した真姫は、丁寧に地図を織り近藤に手渡す。


「じゃあ、行ってきますね。」

そう微笑んだ真姫が踵を返して局長室から出ようと近藤に背を向けた。


「真姫ちゃん。」


それをジッと見つめていた近藤だったがその背中に声をかけた。
それに反応して振り返った真姫にゆっくりと近寄った近藤が、何を思ったのか唐突にガバリ!と頭を下げた。


「本当に悪い!本当は真姫ちゃんが危険を冒してまでやる事件じゃないのに…!!」

「そんな!局長が謝る事じゃ…」


いきなり頭を下げられた真姫は混乱し、とっさに口をついて出た言葉に自分で驚いた。だが、別にその言葉は嘘じゃない。
仕方ないのだ、と真姫は思う。
実際、ニュースや新聞を見ても被害は尋常じゃない。
もとはといえば、真姫の主な仕事は監察なのだから文句を言える立場じゃないし、文句を言う気もない。
誰かがやらなくてはいけなかった仕事が回ってきた、それだけだ。





そして、沖田に言ったことも…嘘じゃない。




「行ってきます」


思っていることをすべて飲み込んで、不安げな顔をする近藤に精一杯の笑顔で告げて真姫はそのまま局長室を後にした。

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