〜pray〜

□〜第六章〜 誤解は早めに解かないと、後々大変
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「……山崎さんが?」


昨日の心臓に悪い話のせいで最悪な寝起きを迎えた真姫は、遅刻が許されない事をいつも以上に知っていたため少し早めに屯所に顔を出していた。
そこで昨日の夜間廻りの隊士と鉢合わせし、世間話をしている内に話は昨日のビックニュースについて話題が変わった。




ここで話は冒頭に戻る。




「山崎さん、副長に言われて連続少女誘拐事件の内密捜査してたじゃないですか。何か、前々から連絡取れてなかったみたいですよ。」


山崎が内密捜査をしている事を知っているのを前提で話す隊士に、適当に相づちを打ちながらも話を聞いた真姫は愕然としていた。


「血液鑑定はまだ出てないらしいんですけど、殺り合ったと思われる攘夷浪士たちの死体も見当たらないんで、もしかしたら…」


それ以上先は何も言われなかったが、その場にいた全員はその続きを察してしまい、何とも言えない一日の始まりを迎えた真姫だった。















「囮捜査だってーのに見回りだとは、真姫もとことんついてないねィ。」


はぁ。と哀れみの視線を寄越しながらため息をつく沖田の言葉を聞いた真姫は苦笑いをするしかなかった。
今回の囮捜査は幕府から内密に指示されたものらしく、一般市民はもちろん隊内でも知らない者は少なくないらしい。
そんな人たちに悟られないように、5時まで真姫は通常業務をする事になっている。

きっと、沖田はその事を言っているのだろう。


「そんな事より見回りしてくださいよ。」


相も変わらず巡回中に休憩という名のサボりをするために意気揚々と団子屋に入った沖田を見ながら真姫が何気なくそう言うと、既に席に腰を下ろしていた沖田がピタリと動きを止めた。


「隊長?」


不思議に思い、真姫が首を傾げると沖田は無表情のまま淡々と告げた。


「今回の囮捜査は極秘だろィ?何で俺がその事を知ってるのか、不思議に思わなかったんで?真姫。」


最初、あまりの無表情さで言われている意味が分からなかったが、時間が経つにつれその言葉の意味を理解した真姫が小さく息を飲んだ。


「何で断らなかったんでィ?真姫がイヤだって言っても責められなかっただろうに。」

じっとこちらを睨みつける沖田の目が全くと言っていいほど笑っていない。
それに気づいた真姫が言い逃れが出来ないと悟り、深いため息をつく。
あくまでも淡々と自分の隣のスペースを叩いて座るよう促す沖田に逆らわないまま自分もそこに腰を下ろして渋々と言った体で話し始める。


「正直な話…嬉しかったんです。」

「嬉しかった?」


眉根を寄せて聞き返してくる沖田の顔が余りにも年相応で、思わず笑ってしまいそうになるがここで笑ったら後が怖いと言うことに気づいて居住まいを正した。


「あの事件の事を話されなかった時、必要とされてないんだな。って思ったんです。確かに、迷惑しかかけてないんで仕方ないんですけど…だから、話してもらえた時は本当に嬉しかったんです。…それが、御上の命だったから、仕方なく話さなくちゃいけなかったのだとしても。」


そう言いながら目を伏せる真姫を沖田は無言で見つめ先を促す。


「知ってました……副長があたしのためを想って隠してたこと…局長や副長があたしを大事にしてくれてることくらい……でも、あたしは真選組隊士です。自分の身より、仕事を優先したいんです。」


自分はあくまで隊士で、刀を持つ武士だ。
気遣いは有り難かったが、それは真姫が望んでいることではない。


「そうかィ…まぁ、真姫がそう言うならいいんだけどねィ…」


そう呟いた沖田の顔が、若干安堵したように見えたのは気のせいだろうか?
そう思ったのと同時に、今まで考えもしなかった思考が頭をよぎる。




―もし、今回の捜査が失敗したら…?





「隊長、あたし「お待たせしましたッス!みたらし団子二本ッス!」


一瞬でよぎった考えがあまりにもリアルで、不安になった真姫がそう話を切り出したとほぼ同時に、店員の元気な声が二人の間に割って入ってきた。
見れば、いつの間に頼んでいたのか美味しそうなみたらし団子が2つ皿の上に鎮座している。
いきなり出てきた派手目の店員に呆気にとられていた真姫は、暫くぼんやりと意味もなく持ってきてもらった団子を見つめていた。


「真姫はきっと出来まさァ。」


突然聞こえてきたその言葉に反射的に顔を上げると、持ってきた金髪の女店員に礼を言って既に一本の団子に手をつけている沖田とバッチリ目があった。


「近藤さんや土方さんは未だに悩んでいるみたいだったけど、真姫は決められたからにはそれをやり通すくらい、俺には分かるンでィ。」


もちゃもちゃと団子を食べながら素っ気なく、だがしっかりとまっすぐに真姫の欲しかった言葉を言ってくれる自分と歳があまり変わらない上司を見て、真姫はようやく安心したように団子を口に運んだ。


その団子は、とても美味しかった。


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