〜pray〜

□〜第五章〜 人に隠し事をするのは、時と場合によっちゃ仕方ない。
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「失礼します」


まだ朝練が始まるまで30分もある中、自室で書類整理をしていた土方の部屋に今まで休んでいた女隊士の声がかかった。
部屋の主がそれに気づき、視線を書類から相手に向けると、そこには前より顔色が良くなった真姫の姿。


「おぅ。もう平気なのか?」

「はい。大丈夫です。」


土方の問いに緩く微笑んだ真姫を見た土方は、そうか。と満足げに笑う。


「治ったんなら、とりあえず朝練出て飯食って巡回行け。総悟一人だったら、何しでかすか分からねーからな。」


土方が頭をガシガシと掻きながら大きく伸びをして欠伸をかみ殺す。
寝不足状態のせいか故意でやっているのかは定かではないが、本人が聞いていたら黙っていない事を平然と言いのける土方を、純粋にすごいと思う。
いつもの真姫ならそれに対して何らかのリアクションをしてから部屋を出るのだが、今日はそのまま部屋に入り土方から少し離れた位置に腰を下ろした。


「あの、副長…連続少女誘拐事件の事で聞きたいんですけど……」


正座した膝の上に手を乗せて、相手の様子を伺いながら真姫は単刀直入に切り出した。

その時、わずかに土方の目が見開かれるのに気づかないほど真姫は疎くない。

書類と向き合っていた土方の視線が、真姫に向けられた。


「誰から聞いた?」

「今日、花野アナが…」


土方独特の射抜くような視線で見つめられ、思わず目を逸らした真姫を見て、土方はため息を付いた。


「テレビか…それは誤算だったな」


その呟きを聞いた真姫が、驚いた顔をして土方を見る。


「…それ、どういう意味ですか…?」



誤算。



それはつまり、真姫にその情報を流すつもりはなかったということ。
真姫が今日、テレビを付けなかったら一生知る由もない事件だったのだ。
ありえない、と言いたげな表情をする真姫の問いに、土方は形のいい眉を少し動かして、ピシャリと一言。





「お前には関係ないだろ?」




真姫を突き放すような淡々とした口調で話す土方に、少なからずカチンときた真姫は、理由に納得できず相手に食い下がる。


「関係ないって…こんな大きな事件なのに、調査どころか話も聞かせてもらえないって、おかしくないですか!?」


我慢できずに相手に詰め寄るも、土方は真姫を見るだけで何も話そうとしない。


「何で教えてくれ「実際にその事件が起きてるのは確かだ。でもな、それをお前に伝えたとしてお 前に何が出来る?」


懲りずに聞いてくる真姫に嫌気がさしたのか、土方が苛立った口調で口早にそう言い切った。
その言葉に、真姫は今までの勢いとは裏腹に口をつぐむことしかできない。

悔しいが、土方の言うことは確かに正論だ。
真選組に入ってまだ一年も経たない真姫に出来ることなど限られている。
もしかしたら、出来ることなどないのかもしれない。

でも…



「分かったらさっさと「そんなにあたし…頼りないですか?」


無情とも取れる土方の言葉にひどく傷ついた顔をした真姫が、相手の言葉を不安な声音の問いで遮った。
その真姫の問いには答えず、何事もなかったかのように書類と再び向き合い始めた土方を一瞥した真姫は、何も言わないまま足早に部屋から出て行ってしまった。

真姫の足音が廊下から全く聞こえなくなった所で、ようやく土方が書類から顔を上げる。
真姫が勢いで出て行ったため、開けっ放しになっている襖を見た土方が苦々しい顔でたばこを取り出し火を付け、煙を体内に取り込んだ。


「俺にどうしろって言うんだよ…」


取り込んだ煙を吐きながらポケットに入っているケータイを取り出し、何もない着信履歴を見てため息混じりにポツリと呟いた。








「…報告はどうした、山崎…。」




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