〜pray〜

□〜第二章〜 新しい環境にすぐ慣れる奴って、意外に神経図太いやつ。
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「はぁーい、お兄さんそこまでね。」


神楽が真姫を庇うように前に出たのとほぼ同時に、気の抜けた声が聞こえた。
見れば、男の首には真剣が触れている。

その先を見れば…。


「サド!?」


栗毛色の男の子が、スーパーの袋を持ったまま真剣を抜いていたのだ。


「真姫さん、神楽ちゃん、大丈夫!?…って沖田さん。」


新八が、荷物を持たないで群衆から出てきた。
どこかに置いてきたのだろうが、今はそんな事に気を使っている場合じゃない。


「旦那の所のメガネじゃねーかい。ってことは何でィ、このネーチャンは万事屋の旦那ですかィ?」


沖田と言われた子供が、剣を納めながら真姫の顔をジロジロ見る。
真姫もどこを見たらいいかわからず、とりあえず目の前にいる男を見ていた。


「んなワケないでしょ!!銀さん、別に女装が趣味とかじゃないから!」


新八の突っ込みもどこ吹く風。


「そーですかィ、じゃあ何でこのネーチャンは旦那の服を着てるんでィ?ってか、あんた誰でィ?「そーごっ!通り魔捕まえたのか!?」


いきなり響いた怒声と、沖田の頭に鉄拳が振り落とされた。


「何言ってんでさァ、ちゃんとそこにいますぜィ。それより、見て下さいよマヨ方さん。旦那が性転換手術しましたよ。」

「誰がマヨ方…だ…」


タバコを吸っている黒髪の男が、真姫の顔を見るなり口にくわえていたタバコを落とした。


「お前…本当に万事屋か…?」

「だぁかぁらぁ、違うっつってんだろーが!しつけーんだよ、あんたら!この人は真姫さん!今日から万事屋に一緒に住むことになった人ですよ!」

「ど…どうも。」


いつまでも座っているわけにもいかないと思い当たった真姫は、立ち上がりそのまま礼をした。
が、ガン見され、すぐさま新八の後ろに隠れる。


「土方さん、女を瞳孔開いた目で見たら怯えるに決まってるじゃねーですかィ。」


それに目ざとく気づいた沖田が土方をおちょくった。


「好きで開いてるわけじゃねーよっ!」


そう言うが、少し罪悪感を感じたのか、土方がとりあえず悪かった。と詫びてきたので、逆にこっちが悪いような気がした。


「っていうか…誰ですか?」

「真姫は、知らないアルか?税金どろぼーネ!」


その言葉に敏感に反応した土方が、ちげーよっ!と神楽に反論した。


「真選組って、知らねーか?」


真選組…知らないと首を振ると、土方にため息をつかれた。


「まぁ、なんだ。とりあえず、ここら辺の治安を守るのが仕事みたいなもんだ。で、俺は土方。こいつは沖田だ。」


あ、だからお揃いの服着てるんですね。
てっきり仲良しなのかと思いました。

と言ったら、2人に本気で怒られた。


「あ、そーいえばこの男の身柄、まだ確保してねーじゃないですかィ。さっさとしやがれ土方コノヤロー」


話が一通り終わった所で沖田が口を挟み、通り魔男をつま先で軽く蹴った。


「お前がやれよ!…ほら、さっさと立ちやがれ」


土方が座り込んでいる男の手に手錠をかけると、男の脇を掴みながら近くに停めてあったパトカーに無理矢理押し込んでいた。


「で、あの男をねじ伏せたのは誰でィ?」


そんな土方の背中を見送っていた沖田は、新八の方に向かいあった。


「いや、ねじ伏せたというかなんというか…」


言い淀んだ新八を軽く流し目で見た沖田が、その後ろで縮こまっている女を見据えた。


「まぁ、言い方は何でもいいでさァ。で、やったのは…って言っても、俺ァちゃんと見てましたけどねィ。」


そう言って、未だ新八の背中にしがみついていた真姫の腕を取った。


「な…何ですか?」

「このおてんば姫でしたねィ。事情聴取でィ。あと、多分ですが大事な話があると思いまさァ」


大事な話?

何なのか分からず、とりあえず新八たちに目線を送ると、新八たちも正確に目線の意味を汲み取ったようだ。


「いや、困りますよ。沖田さん。真姫さん、あんまりここら辺慣れてないみたいだし、話だったら僕たちが聞きますよ。」

「お前ら、ぜんぜん働かないくせに、レディー連れ回すとは何事ネ!真姫がいないと、焼き肉食えなくなるアル、連れてったらはっ倒すアルよ!」


…あれ?
神楽ちゃん、それあたしのため?
それとも肉のため?


「ガキに話す内容じゃ無いんでィ…。あ、旦那を屯所まで連れてきなせェ」


沖田が、めんどくさそうに頭を掻きながらさり気なく新八をパシリに使う。


「フンッ、真姫餌にして銀チャンを釣るつもりアルか。そしたら、あの天パ大人しく渡すから、真姫を返すアル!その間にワタシが肉食べるネ!」


あ、やっぱり肉のためなんだ。


「だから、俺が用事あんのはこっちだって言ってんでィ。やんのかコノヤロー」

「やってやるネ!肉のため…じゃなくて真姫の自由のためにも勝つアルよ!」


真姫を間に挟み、神楽と沖田が喧嘩腰になってきた。


「やっぱり、行ってきますね。このままじゃ埒があかないし…」


そんな二人の間に割り込んだ真姫は、その一瞬の隙をついて沖田の腕から逃れた。


「アンタァ、やりますねィ。いくら力入れてないからって、まさか俺から抜け出すとは…」


沖田が真姫を感心して見つめている間に、パトカーに行っていた土方が戻ってきた。


「総悟、いつまで遊んでんだ?さっさとそいつ連れてこい。」


へいへい、と聞いているのか聞いていないのか分からない返事をすると、そのまま真姫に声をかける。


「じゃあ、行きましょうかねィ。おてんば姫さん。」


どこか裏のある言い方に、疑問と一瞬の寒気を感じた真姫だったが、言われたとおりにパトカーの開けられたドアに乗り込んだ。


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