〜pray〜
□〜第二章〜 新しい環境にすぐ慣れる奴って、意外に神経図太いやつ。
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新八と真姫が後ろを振り返ると、そこには20代半ばの男が群がる群衆を掻き分けながら、持っている刃物を振り回している様だった。
群がる人は皆、散り散りに男に道を譲る。
手には、さっき真姫が拾った財布が。
「ちょっと、あの人こっちに来るんですけど!」
新八が慌てふためきながら、呆然と突っ立っている真姫の腕を引っ張った。
「真姫さん!僕たちも巻き込まれますよ!」
「…新八君、荷物お願い。」
「え…?」
思わず聞き返した新八を無視し、真姫は新八が持っている荷物の上に更に自分が持っていた荷物を乗せた。
そのおかげで新八はバランスを崩すが、何とか持ちこたえる。
「ちょっと、真姫さん…!」
重い荷物が積み重なり、視界もほとんどない状態で真姫の姿を探すが、真姫は既にその場にいなかった。
「どきやがれぇ!女ぁ!」
真姫が男と対峙するように立つと、男が刃物をちらつかせながら真姫に突っ込んでいく。
が、真姫は、それを綺麗に交わす。
そのため、男が振りかざした刃物は、どこにも行く宛がなくそのまま空を切った。
「バッカ!新八ィ、止めるアル!」
「いや、無理でしょ!?」
事態に気づいた神楽が新八にそう命令するが、新八は新八で買った物を落とさないようにと自分の任を全うしているので、着流しを引きずりながら移動する女といえども、走って追いかけると言うことは出来ないに等しかった。
「だっからお前は、ダメガネって呼ばれるアル!ワタシのも持つアル!」
神楽が一方的に新八に荷物を預けると、傘を開いたまま真姫の後を追った。
「嬢ちゃんよぉ、そこどいてくれよ。どかなかったら、あのばばあみたいになっちまうぞ?」
男が、刃物をちらつかせながら真姫の前に立つ。
真姫も、それに合わせて一定の距離を取りながら、男を見据えた。
「何なら、嬢ちゃんの財布くれるだけでいいぜ。俺ァ、優しいからな。はした金で嬢ちゃん助けてやるんだぜ?こんな良い話はないだろ?」
男が、にたりと気味悪い笑みを浮かべる。
それでも真姫は動かなかった。
真姫の目に映っているのは、
血だまりの中でうずくまっているおばあちゃん。
周りを取り囲む人たち。
刃物から滴り落ちる、血。
「ナメてんじゃねーぞ…死にやがれ!」
男が、そう言って刃物を突き出した。
刃物によって貫かれた女は、そのまま血を吹き出しながら倒れるはずだった。
が、そこに狙った物はいなかった。
「後ろ」
とっさに聞こえた声に反応し後ろを振り向くが、そこにいるのは集まってきた野次馬たちの怯えと驚きの顔。
「しまっ…!」
男が自分の目の前の女の居場所を把握した時には、既に女に足掛けをされその場に倒れてからだった。
カランカラン、と乾いたアスファルトに血濡れの刃物が落ちる。
「くそっ!」
男が刃物を掴もうと腕を伸ばした時、真姫は男の背中に馬乗りになると、両腕を掴み背中に押さえつけた。
「真姫!」
群衆からかき分けてきた声にはっと反応すると、そこには怯えきった神楽が。
「神楽ちゃん…あたし…!」
真姫がそう呟いたとき、力の緩みを感じた男が真姫を押しのけて立ち上がった。
その反動で真姫は男の背中から転げ落ち、尻もちをつく。
「この女ァ…ただじゃスマさねーぞ!」
転がった刃物を手に取ると、自分をコテンパンにした女に向かって一直線に向かっていった。
「真姫!!」
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