〜pray〜

□〜第七章〜 疑惑は時に惨事を生む
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「今回は、本当に特別な措置じゃ。」


朝日が射し込む町、そこにはすでに馴染みとなったいつもの顔ぶれの銀時、新八、神楽は月詠先導の下、吉原桃源郷にいた。

見つめる先には、4つにも満たない者から18位までの少女たちが、自分の家族や恋人と会って再会を喜んでいる。


「悪ィな、月詠。でも、平気なのか?折角の労働者だったんだろ?」

「前の吉原だったら許されなかったじゃろうな。だが、拉致されてきた女たちに奉公させれんと言い出したのは日輪自身じゃ。幸い、まだ金も払っておらんかったしの。これでいいんじゃ…」


片手を上げて月詠にそう謝れば、月詠は首を振りながら再会を果たした女たちを見つめた。

その眼差しは、あくまでも優しい。


「だがまさか、攘夷の者たちが攫った女を売りにくるとはわっちも気付けんかった……百華の者たちにも注意するように言わなくてはな。」

「実際、違法じゃねーだろうが。売りに来たって文句なんか言えねぇだろ。」

「売りに来ること事態は違法ではないが、それが親類縁者ではない者、事件に巻き込まれた女なら話は別じゃ。特に、こんな大事件ならな。」


ため息をついた月詠が、バサッと持っていた新聞を銀時の胸に叩きつけるように渡す。
そこには一面は勿論のこと、裏面や中までカラー印刷という大盤振る舞いで、今回の事件を伝えている新聞記事が。


「昔の吉原なら、確かに事件に巻き込まれた女でも問題はないじゃろう。じゃが…日輪が仕切るこの街では、もうそんな事は通用せん。」

「そうか……」


前のことがあってから、街が変わろうとしている。

その一端をまざまざと見せつけられた銀時は、何も考えていないような顔でそう呟くと、ガシガシと頭を掻いた。


「そういえば、こ奴らを助けたオナゴは一緒じゃないのか?誘拐の罪の片棒を担ぐ事になりそうだった吉原を救ってくれたのだから、一言礼を言いたいと思ったのじゃが…」


ふとその事に気付いた月詠が、キョロキョロと辺りを見渡す。
その言葉に銀時の動きはピタリと止まり、新八と神楽はその様子を不安そうに黙って見つめた。


「………アイツは…今ちょっと野暮用でな。万事屋にいねーんだ。」


だが、それも一瞬のことで、何もなかったかのように抑揚のない声で応対する銀時。
それを聞いた月詠も何も不審に思うことはなく、そちらも大変なんじゃな。と意外そうに目を丸めた。


「…それ、どーゆー意味よ?」

「どーもこーも、そういう意味じゃ。」

「あー、ああいう意味か。ぶっ飛ばすぞアバズレ。」


噛み合っているような噛み合ってないような会話を二、三交わすと、まぁ。と月詠が言葉を続ける。


「そのオナゴが帰ってきたら、礼を言っといてくれ。いつでも構わんからの。」

「わーった、っつうの。いいからお前も行けや。俺達ももう帰るからよ。」


再度礼を言う月詠に対して面倒くさそうに顔をしかめた銀時が、シッシッと犬を追い払うようにして月詠に戻るように促す。
それを見て頷いた月詠が持っていた煙管を一吸いすると、そのまま被害者たちの喜びが冷めない吉原に戻って行った。


「……戻ってきたら、か。」


小さく零した銀時の声は、月詠の背中に届くことはなかった。






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