お題『最期に聞こえた君の歌声』から
東京魔人學園で二次創作。龍麻×比良坂(『恋唄』より)
何度目かの爆発音が聞こえる。
この部屋もまもなく炎に包まれるだろう。
灰色の煙が視界を奪って行く。
目の前の、彼女の姿まで。
自分もどこか怪我をしているのに傷ついた兄を支え、俺を見つめる哀しげな瞳。
「比良坂、早く」
崩れそうな天井を気にしながら手を伸ばす。だけどその手は彼女に届かない。
「ごめんなさい」
小さく首を横に振り、謝罪の言葉を繰り返す。
「比良坂」
すでにそこまで炎が迫っている中、彼女へと足を踏み出そうとした時一際大きな音がして柱が崩れた。
「龍麻っ」
京一に腕を掴まれて後退りする。
「馬鹿かっ」
「離せよ京一。比良坂が」
「だからってお前が危ねぇの放っとけるかよっ!」
心配してくれる京一の手は振り解けないようしっかりと俺を捕まえていた。
「京一、龍麻!ここは危ない。早く逃げるぞ」
「今行く。ほら龍麻」
美里と桜井を先に行かせた醍醐が俺たちを促す。
僅かに残された退路は、間もなく炎と瓦礫により断たれるだろう。
比良坂がまだ其処に居るのに。
「比良坂っ」
煙で悪くなった視界に彼女を探す。もう手を伸ばす事も出来ない。
「出会えて良かった。ありがとう」
良く見えないけど、微かに微笑んだ気がした。
「龍麻っ」
京一の叫び声と爆発音が重なって俺と彼女を隔てるようにコンクリートが崩れた。
醍醐と京一に引きずられるようにその場所から逃げ出した俺の耳に激しい崩壊音に混じって、哀しげな歌声が聞こえる。
彼女の最後の…。
何かを護る為に『力』があるのだと思っていた。
この『力』でこの街を、大切な人たちを護るのだと。
だけど、たったひとりの少女を救う事も出来ないのなら何のために闘うのだろう。
握りしめた拳をゆっくり開いて見つめる。
この手は何を護れるのだろうか。
この闘いの後、この手に何か残るのだろうか。
今は何もわからないけど、共に闘い、痛みを分かち合える仲間たちを信じて俺は前へと進もう。
最後まで言えなかった比良坂への言葉を胸に。
「俺も、比良坂に出会えて良かった。
……好きだったよ」