きめ

□元弟子
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煉獄さんに見捨てられて、あっという間に一年が経った

よく一年も1人きりで生き残れたものだと、自分でも少し感心していた

それでも、いつ死んでもおかしくない、そんな覚悟は毎日していたし

鬼よりも何よりも、私が怖いのは人だった

自分を知ってる隊士からは「足手まとい」「落ちこぼれ」と嘲笑われて、蹴飛ばされたり、殴られたりすることがあった

身体には痣が増えていって、鬼から傷つけられた傷よりも深く傷んだ

気が付いたら笑うことができなくなって、人の目を見ることもできなくなった

任務をこなすときも、あまり人とは上手く協力できなくて

ただただ鬼を斬る、迷わず斬る

それだけを考えて行動していた

1人で行動することに慣れてきた頃

ある任務で、私は窮地に立たされた

鬼の攻撃を避けきれずに、身体を地面に打ち付けられて、身体が動かなくなってしまった

それでも剣を握らなくてはならないのに、もうそんな気持ちも怒らず、起き上がる気力も怒らなかった

もう良い。十分やった。このまま死のう。

そう思い目を閉じると、何故だか頭をよぎったのは、いつしか煉獄さんと2人で見た桜の木だった

諦めたはずだったのに、身体が自然に起き上がり、鬼の攻撃を交わして、また剣を握り刃をむける

声にならい叫びを上げて立ち向かおうとした時

あたり一面が燃え上がり、目の前の鬼の首は綺麗にふっとんでいた

その光景を最後に、ふらりと意識は途絶えて、真っ暗闇へと落ちていった



ーーー





ひとみ「………???」


目を覚ますと、見たことのある天井が目に入った

蝶屋敷だろうかと意識を戻すが、どうやら蝶屋敷ではなさそうだ

縁側のある一室に、自分だけが寝ているようだった

ぼやぼやとする頭は、眼力を入れるだけでもくらくらと意識が飛びそうになる

身体は痛くて動かすこともできない

どうやらまた生き延びてしまったらしい

また隊士に遭遇したときに何を言われるかわからないな…

そう後ろ向きなことを考えていると、ササ…と障子が開く音がした



千寿郎「…!!目を覚まされたんですね!良かった…」

ひとみ「……??」

現れたのは、煉獄さんの弟の千寿郎くんだった

千寿郎くんの顔を見て、ようやくここが煉獄家の一室だと気づく

久々に見た千寿郎くんは、最後に見た時よりも随分大きくなっていた




千寿郎「任務で重傷を負われて、兄上がここへ運ばれてきたんです」

ひとみ「……、、、」

千寿郎「身体痛みますか…??胡蝶様から頂いた鎮痛薬があるので、飲んでください」

ひとみ「……、、、」


煉獄さんが助けてくれたんだ

あの時見た、真っ赤に燃える炎は見間違いではなかったのだと、そう思うと何故だか涙が溢れた



千寿郎「だ、大丈夫ですか…??やはり痛みますか??お医者様を呼びますので、待っていてください…!!」

ひとみ「……、、、」

ただただ溢れる涙になにもできず、しばらくすると千寿郎くんがお医者さまが訪れて、身体の状態を説明してくれた

思ったよりもグロい状況になっていて、よく死ななかったなと、自分のしぶとさに呆れてしまった


千寿郎「兄上は別の任務に行ってしまわれて、三日は戻ってこないので、しばらくは俺が看病しますね!」

ひとみ「………」

千寿郎「簡単な食事を用意するので、まずは食べて体力をつけてください。」

ひとみ「………」

千寿郎「川屋へ行きたい時は鈴を鳴らしてください!すぐ来ます!」

ひとみ「………」














ーーー





ひとみ「……??」

賑やかな声に、ぱちりと目を覚ますと、廊下の奥からわっはっは、と明るい話し声が聞こえてきた

懐かしいその声に、とくとくと心音が早まる

正直、体調が最悪な今こうも心音が高まると、それだけで頭がくらくらして、息がくるしくなった




煉獄「俺はひとみの様子を見てくる!甘露寺は先に休むと良い!」

甘露寺「ありがとうございます。おやすみなさい!」

煉獄「うむ!おやすみ」


そんな話し声が近くから聞こえてきて、びくりと身を震わせてからまぶたを閉じると、ゆっくり障子が開く音が聞こえた



煉獄「………」

ひとみ「………」



しーーんと静まり返る部屋で、心音を落ち着かせて寝たふりをすると、そっと掛け布団が直されるのを感じた

煉獄さんの大きな手が額を覆って、暖かい体温が一気に頭に流れて心地よかった

その温度に心がほぐれたのか、何故だか自然にゆっくりと瞼を開いてしまい、ぴたりと煉獄さんの大きな瞳と目があった




ひとみ「ッ………」

煉獄「…おはよう。目が覚めたか」

ひとみ「………」


優しい声で、優しい目でそう語りかけられて、ぱちくりと瞬きする

こんなにじっと人と目を合わせたのは久しぶりだった



煉獄「任務で大分深傷を負っていて、俺が此処へ運んだ!覚えているか?」

ひとみ「……、、」

煉獄「そうだろうな。俺が駆けつけた頃には、君は気を失っていた。駆けつけたのが遅くて申し訳なかった」

ひとみ「………」

煉獄「……まだ身体が痛むだろう?君は十分やった。此処でゆっくり休むと良い。」

ひとみ「………」


煉獄さんの優しい言葉に、体ではなく心がズキズキといたむ

私は何もしていない、何ひとつ成し遂げられなかったのに、何を言っているのだろうか

煉獄さんの言葉に、ゆっくりと首を横に振る



煉獄「…その身体ではどこへも行けないだろう。布団からも出れないと思うが」

ひとみ「………」

煉獄「
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