SSS
□頼りにしてるよ。
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『十二室の門ッ!』
荒野にヴィンセントの声が響き、黒い血にまみれた<悪魔>ドラクルが吸い込まれていく。
その様子にライアンとヴィンセントはほっと息をついた。
「はあ〜。終わったー...今日はちょっと疲れたね!兄ちゃん。」
今日はドラクルが1匹だった為、ローゼンスキー兄弟と補助でモーツァルト姉弟の出動だった。
ドラクル自体が巨大だった為苦戦はしたものの大きな怪我もなく、無事に封印することが出来た。
「...そうだな。」
「どうしたの?兄ちゃん?」
歯切れの悪い兄にライアンは首を傾げる。
「...なんでもない。」
「そう?」
怪我などではないようだし、大丈夫かとライアンは思う事にした。
怪我などなら自分は気づくだろうし、それ以外ならばきっと兄は言わないだろう。
学園に到着した頃にはもう夜遅く、大抵の者は部屋で寝支度をしている時間だった。
お腹がすいたと零すライアンに、用事を思い出したから先に寝ていろと言い残し部屋を出た。
早く行かなければ。
コンコン。
「はい?」
誰だろう?
こんな時間に。
ガチャリ。
「ヴィンセント君?」
「ヴィンセント?どうした?」
こんな時間に訪ねてくるなんて、
何かあったのだろうか?
「...。」
「今日ドラクル退治だったよな?」
ヤーコブが話かけるが、ヴィンセントは俯いたまま反応しない。
「ヴィンセント君...?」
変に思ったヴィルヘルムが肩に手をかけると「ねむい。」と呟く。
「「は?」」
ヤーコブとヴィルヘルムが聞き返すが、答えないままふらりと身体が傾き倒れてしまいそうになるのをヴィルヘルムが慌てて抱き止めた。
「ヴィンセント君ッ!?」
「オイっ!?」
「...寝てます。」
「...そうみたいだな。なんなんだ?」
「さあ...。」
「とりあえずベッドに寝かせるか。」
まるで死んだように眠ってしまっているヴィンセントをヤーコブのベッドに下ろし、2人はその顔を覗き込んだ。
元々ヴィンセントは眠りが浅いらしい。
こんなに深く眠っているのは珍しいかもしれない。
ましてや倒れて爆睡するだなんて。
「あ、もしかして...」
「ん?」
「今日はドラクル退治だったから封じたせいかもしれません。」
「ドラクル退治?」
「はい。ドラクルを封じた時に後衛がJ圧を受けるんですが、その時の感じ方は皆少しずつ違うんですよ。」
「ああ。」
ヤーコブは聞いた事があったな、と記憶を思い起こした。
前衛である自分には直接的には関係のない事だが。
「大体は胃の痛みやストレス。人によっては気分の悪さとかですね。」
1年生が能力検査をする時にドラクルの一部を封じた後衛の生徒たちが『胃がチクチクする』と表現していた。
「ヴィンセント君にはJ圧を操る力があるみたいですが、それで身体的な『痛み』が少ない分、『睡魔』が来るんじゃないでしょうか。」
「ああ...有り得る話だな。」
「しかし、倒れるほどの睡魔ってのは危なくないか?」
「いえ、段々と身体が慣れてくるはずですから大丈夫だと思います。J圧は消しようもないものですが、それとはまた違いますしね。」
「そうか...。」
「きっと、深く睡眠に入ってしまうのでライアン君に心配をかけてしまうのを気にしたんでしょうね。」
「これだから『兄』ってやつは...。そういえば、以前にヴィンセントが庭で寝ているのを見つけ時もドラクル退治の後だったな。」
以前に珍しく庭で眠り込んでいるヴィンセントをヤーコブが見つけ、風邪を引くからと部屋へ連れて帰ってきた事があった。
「ふふふ。」
「こうしてると可愛いよな。」
「そうですね。」
着いたとたんに倒れ込むくらいの中で、僕たちのところまで来たって事は少しは頼られていると言うことだろうか。
僕は兄さんと顔を見合わせて笑った。
君が安心出来るならば
いつでも頼ってきて欲しい...
僕らの両腕は開けておくから。
end.