短編小説

□ウワサの彼
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「お似合いですよね〜。越前先輩と相模部長」


そんな後輩のはしゃいだ声を聞いて、私の胸がまたズキンと痛んだ。





ウワサの彼





青春学園高等部。
3年生になったリョーマ君は、中等部のときと同じく、男子テニス部の部長になりました。
副部長は、意外なんて言ったら怒られちゃうけど、堀尾君が立候補したみたい。
私の所属する女子テニス部の部長は、相模ゆきちゃん。
副部長は私。
頼りないなあって思うことばかりだけど、がんばってます。

高等部の男子テニス部と女子テニス部は、顧問が同じということもあって、中等部より交流する機会が多いの。
何より部長同士の話し合いは頻繁にあって、その度に、リョーマ君と相模さんが一緒に帰ったと噂になる。
そして、いわゆるコイバナ好きの後輩達が、その話で盛り上がるんだ。
からかわれると、相模さんは「そんなんじゃないって言ってるでしょ!」なんて怒ったように言うけれど、私には彼女がとても嬉しそうに見えるの。
彼女も、リョーマ君に恋してる。
私はなんとなく、そう感じていた。


「越前君も絶対、ゆきのこと好きだよ!」


同級生の部員が、ひやかしながら相模さんの肩を軽く叩いた。
コイバナが好きなのは、後輩に限ったことじゃない。
そして相模さんは今日も、そんなことないよと謙遜する。
部活が終わって、いまは女子テニス部の部室。
私はそんな会話を聞きながら、みんなと一緒に制服に着替えていた。


「だって、ゆきと噂になってても、部長会議の後は一緒に帰ってくれてるじゃん!嫌だと思ってたら、何かの理由つけて断ってるよ」


これは脈アリな証拠!と、相模さんの背中を押す。
そうかな…と照れ笑いをする彼女に、私はまた胸が痛んだ。

私は、リョーマ君のことが好き。
1年生のとき、憧れが恋だと気づいたときから、ずっと…。
でも、この気持ちを伝えられなかった。
だって、怖かったの。
リョーマ君に拒絶されることが。
もう今までみたいにお話できなくなることが。

私はきっと、このまま想いを打ち明けないと思う。
一生、死ぬまで、この想いを温め続けると思う。
リョーマ君がだれと付き合おうとも、リョーマ君がしあわせならそれでいい。
そう、思うから……。
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