短編小説

□next time
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街で偶然彼を見かけた。
後ろ姿だったけれど、すぐにわかった。
声をかけようと思ったけれど、すぐに人混みに紛れてしまった。
じっと彼のいた方を見ていると、人の波から出てきて、角を曲がった。
追いかけようかと思ったけれど、なんだか気が引けて、やめた。
私は、人の流れに従って歩いた。


街で偶然彼女を見かけた。
後ろ姿だったけど、すぐにわかった。
長いおさげを揺らしながら、ふらふらと歩いていた。
危なっかしくて、じっと見ていた。
声をかけようか迷ったけど、何かを見つけたらしく店の中に入って行った。
何の店か知りたいと思ったけど、やめた。
俺は、まっすぐ家に帰った。



翌日、桜乃は廊下でばったりリョーマに出会した。

「あ、リョーマくん。おはよう」

「…はよ」

お互いに、思わずじっと見つめてしまう。

「あの…」

「ねえ」

声が重なった。

「あ、ご、ごめんね」

桜乃はすぐに謝った。
そしてリョーマが話すのを待つ。

「先に言いなよ」

しかし、リョーマは桜乃に発言権を譲った。
戸惑った桜乃にもう一言加えて促すと、躊躇いがちに話し出す。

「リョーマくん、昨日街にいた…?」

リョーマはびっくりした。

「いた」

質問には短く答える。

「あんたもいたよね」

「えっ?」

桜乃もおどろいた。

「リョーマくん、私のこと見かけたの?」

「帰りに偶然ね。あんたも、よく知ってたね」

「あ、私も、リョーマくんのこと、見たんだ…」

人がたくさんいたから一瞬だったけど…と、声をかけなかったことへの遠回しな言い訳をする。

「ふーん。俺も、あんたすぐいなくなったから」

「そ、そっか」

「ん」

会話が終わる。
気まずくはあるものの、心はどこか暖かかった。

「次、授業何?」

リョーマが沈黙を破る。

「え?あ、次は美術だよ」

「…そ」

「リョーマくんは?」

「英語」

「英語かあ…リョーマくんの得意な科目だね」

桜乃は微笑みながら嬉しそうに話す。
それに返事はせず、リョーマは言った。

「ねえ、英語の教科書貸してくんない?」

きょとんとする桜乃。

「教科書…?」

「ん」

「うん、いいよ…?」

「…ごめん」

「ううん」

桜乃は教室に戻り、すぐに英語の教科書を持ってきた。

「サンキュ」

そう言って、教科書を受け取るリョーマ。
頬を赤らめながら微笑む桜乃。
思いの外、リョーマと話ができたことに喜びが込み上げる。


後日、返ってきた教科書に書き込まれた英文を見つけて、桜乃はひとり顔を赤くした。



Call out to me if you see me next time.



END
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