短編小説

□declare
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高校に進学した。
だけど、今までとあんま変わんない。
エスカレーターだし。
外部受験で入ってきた奴もいるみたいだけど、べつにどうでもいいし。
というか、むしろ邪魔。





declare





コウコウセイになって、変わったことといえば、ひとつだけある。

「越前くーん、カラオケ行こうよー」

――やたら、女子が話しかけてくる。
理由なんて知らない。
どうでもいいし。
だけどかなり迷惑。

「行かない」

いつもと同じ返事。
誘われたって、行くわけないじゃん。
アンタらに付き合ってるヒマなんてないし。

「えーっ。今日も部活なの?」

不満げな声が上がる。
そんなの、どうだっていいじゃん。

「たまには息抜きしたら?」

――アンタに言われなくたって、息抜きぐらいしてる。
ハッキリ言って、余計なお世話。
テニスバッグを肩にかけて、立ち去る。
その時、タイミング悪く堀尾がやって来た。

「おい越前!今日の部活、休みだってよ!」

教室中に広がるドデカ声。
隣の教室にも聞こえてるんじゃない?
ホント、イライラする。

「越前くん、部活休みなんだ」

聞こえてくる呟き。
ギロリと堀尾を睨み付けると、な、なんだよ、とうろたえる。
そんな堀尾に更に苛立ちが増す。

「じゃあカラオケ行こうよ」

――しつこい。

「行かない」

さっきと同じ返事をして、教室を出る。
堀尾が邪魔だったから、目でどけろと言ったら飛びのいた。
声をかけてくるのは、たいてい外部受験の奴らだ。
そいつらに唆されて、誘ってくる内部のやつもいるけど。

「ねえ竜崎さん、カラオケ行かない?」

そんな声が聞こえて、俺は振り返った。
案の定、男子に囲まれて困っておろおろする竜崎がいた。

「あの、でも、その…」

しどろもどろになりながら、返事をしようとする竜崎。
竜崎も、高校に入ってからやたらと声をかけられるようになった。

「あの…用事があって…だから…」

「用事って何?」

「え?あ、用事、用事は…」

「ないなら行こうよ」

「あ、えっと、その、あの…」

見てるだけでイライラする。
ハッキリ答えなよ。
アンタらとなんて行きたくないってさ。
俺の足は、無意識に竜崎の方へ向いていた。

「ねえ、何してんの?」

後ろから声をかけると、振り返る。
俺の顔を見るなり、安心したような表情に変わる。

「リョーマくん…」

「探したんだけど」

俺の言葉に、きょとんとする竜崎。

「わ、私を?」

……相変わらず、鈍い。
普通、嘘だってわかるよね。
呆れて溜息が出る。

「約束してたの、忘れたわけ?」

じっと竜崎を見つめる。
竜崎は混乱して、あわてふためく。
目が合ったとき、ちらりと目配せした。
すると、数秒間の後ようやくわかったらしく、あ、という顔をした。

「ご、ごめんね、リョーマくん。私、すっかり忘れてて…」

「いーよ別に。行こ」

「う、うん」

律儀に、誘ってきた男子にさよならを言う竜崎。
そんなことしなくたっていいのに。
竜崎らしいよね。
なんだよ、と文句の声が聞こえてくる。

越前のやつ。
邪魔しやがって。

――邪魔?
それはこっちのセリフ。
俺は後ろからついてくる竜崎の右手を掴んだ。

「?!」

「早くおいでよ」

真っ赤になった竜崎を無視して、手を繋いだまま玄関に向かう。

「あの、リョーマくん、手…」

校門を出ても離さない俺に、竜崎が恥ずかしそうに見上げてくる。

「イヤ?」

「えっ…?」

「俺と手繋ぐの、嫌?」

「え?!あ、そ、そんなことないよ!!」

慌てて否定する竜崎。
顔赤くして…それって、もう十分愛の告白だよね。

「じゃあ、今度から手繋いでよ」

「え、えぇ?!」

「ついでに帰る時間も決めとく?」

「え?ええと…あの…?」

意味がわかってないらしい。
――やっぱり鈍い。
ま、そこも竜崎らしいよね。
今日のところは、これでいいや。

「てかさ、最近カラオケに誘うの流行ってんの?」

「へ…?」




END




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