短編小説

□帰り道
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帰り道






学園祭が近づいている。
楽しげな雰囲気の中、リョーマは不機嫌だった。

(テニスやりたい…)

はあ、と溜め息をつく。
学園祭一週間前になると、部活は休みになる。

「おい、越前! お前も手伝えよ!」

リョーマと同じく共同作業のメンバーになった堀尾が、不満そうに声を上げる。

(めんどくさ…)

返事の代わりに心の中で呟いて、リョーマは溜め息をついた。
下校時刻まで準備を進め、その後リョーマはいつものテニス部一年の面々と下校することになった。

「もうそろそろだよなー、学園祭!」

「楽しみだよね!」

「先輩方も気合い入ってるみたいだよ」

はしゃぐ3人の後ろで、どうでもいいと欠伸をするリョーマ。
すると、いきなり堀尾が後ろを振り返った。

「おい越前!」

「…ナニ」

「お前ちょっとサボりすぎだぞー!」

ちゃんとやれよな!と憤慨しながらいつもの小言が始まる。

「………」

「おい、聞いてんのかって!」

「………」

「越前!!」

「…堀尾うるさい」

全く聞く気のないリョーマにがくっとして、堀尾は諦めて前を向いた。
リョーマ抜きで、時々堀尾は白い目を向けられながら会話は弾んでいく。
ふと、カチローが何かに気づいて声を上げた。

「あ、竜崎さん」

ぼうっとしていたリョーマは、カチローの呟きにつられて前を見た。
この先の十字路の真ん中で、何やら慌てているように見える。
その向かいには、見知らぬ男子生徒がいた。

「あいつ、竜崎と同じクラスの加治じゃねーか?」

堀尾の声が耳を通り抜ける。

「何してるんだろう…何か、竜崎さん困ってない?」

「うーん、何かを断ってるように見えるよね」

見れば、加治と呼ばれた男子生徒が何か言う度に、両手を横に振りながら首も横に振っている。

「そんな、いいよ、悪いもん」

見ているだけで、そんな声が聞こえてきそうだった。
歩みを止めていない4人は、当然どんどんその2人に近づいていく。
ふと、男子生徒が4人に気づいた。

「よ! お前も残ってたんだ?」

堀尾が声をかけると、彼は僅かに顔を曇らせた。

「あ、堀尾くん…リョーマくんも」

桜乃はリョーマの姿を見つけると、少しほっとしたように表情を緩ませる。

「何してたの?」

カツオが尋ねると、桜乃が答えた。

「暗いから、加治くんがお家まで送るって言ってくれたんだけど、でも加治くんのお家は反対だから…」

嬉しいような、困ったような顔で笑う桜乃。
やっと事情が飲み込めて、3人はようやく納得した。

「そっか、竜崎さん家どっちなの?」

カチローが尋ねる。

「あ、私はこっちなの」

と言って、桜乃は背中を向けている方の道を示した。

「そっかあ、じゃあ僕も方向違うや」

「そっち方面で誰かいなかったっけ?」

話し合いを始める3人の横で、加治は浮かない顔をしている。
そのとき、3人の後ろから声が上がった。

「送るよ、竜崎」

桜乃はびっくりしてリョーマを見る。
3人もびっくりしていた。
加治も驚いた顔をしていたが、しかしすぐにリョーマを睨んだ。

「あ、でもリョーマくん…」

「あんたの家から俺の家までそう遠くないし」

「でも…悪いよ」

やはり申し訳なさそうな桜乃の様子に、リョーマは溜め息をついた。
いつも遠慮しすぎの彼女に、僅かな苛立ちを覚える。

「いまさら何が゙悪い゙わけ? あんたを送るのべつに今日が初めてじゃないでしょ」

「そ、そうだけど…」

「この前も一緒に帰ったじゃん。…いくよ」

半ば強引に話を進めて、リョーマは解決したとばかりに歩き出した。
桜乃は慌てて後を追う。

「待って、リョーマくん」

リョーマとは違い、ちゃんとそこにいた4人にさよならを言って駆け出す。
残された面々は、リョーマの何気ない一言で爆弾を落とされたような気分でそこに佇んでいた。



END




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