短編小説

□君のいない未来
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いつも一番に考えるのは幼馴染みのことで、誰かと天秤にかけるなんて必要のない状況ばかりだった。
でも、今回は違った。
あいつを助けたい一心で、でもすべてが終わった時には、俺は自分でも気付かなかった大切なものを失っていた。
2つの約束は同時に守れない。
自惚れが犯す罪の重さに、初めて気がついた。



君のいない未来



幾度目かの爆発音がした。
驚いて降り返り、呆然とする。
建物を包む火は一層が強くなって、飛び込んで助けに向かうのは、もう無理だった。
それでも、あの中にまだ自分を待っているであろう人がいる。
なりふり構わず駆け出そうとした俺の腕を、蘭が掴んだ。


「ダメだよ! あんなところに飛び込んだら、死んじゃうよ!!」


縋り付く蘭に、一瞬躊躇いが生まれる。
その時、ついに建物が崩壊した。
エントランスが爆破され、支えるものを失ったそれは、衝撃で次々とまるでだるま落としのように潰れていく。
1段、2段、と崩れる度に、金属がひしゃげ、コンクリートが砕け、ガラスが粉々に散乱する。
見上げれば、俺が「待ってろ」と言った階は、崩れてはいないものの、その窓の向こうでオレンジ色の業火が渦巻いていた。
足を、怪我していた。
きっと動けずに、まだあそこに座っているに違いない。
俺の、自信に満ちた言葉を信じて。


「灰原…!」


俺は叫んだ。
思いっきり、喉が潰れるくらいに叫んだ。
でも、返事はない。
建物は俺の心とは裏腹に、容赦なく崩れていく。
その後も爆音は轟き、巨大なビルが跡形もなく崩れ去った時、俺はこの世のすべてが終わったような心地がした。
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