けいおん!

□『りつむぎ!』
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「りっちゃんは本当に澪ちゃんが好きなのね。」

放課後の部室で。
唯ちゃんに澪ちゃんと梓ちゃんがギター講習会を開いてる傍ら、私とりっちゃんは席に戻ってその光景を紅茶を飲みながら眺めていた。
りっちゃんの視線は澪ちゃんに向いていて、その視線は凄く、凄く優しくて。
思わずポロリと言葉を零してしまっていた。

「ぶはっ!…な、何だよ急に…っ、」

「りっちゃんは本当に澪ちゃんが好きなんだなぁって思って。」

「ま、まあそりゃ好きさ!親友だしなっ!」

もちろん唯も梓もムギもだぞ!…なんて教科書通りな返答は私には通用しない。
つい零してしまった言葉に、感情は走り出してしまう。

「そういう好き、じゃないわよ。」

「じゃあ、どういう好き?」

「恋愛感情で。」

「っ…別に、澪は親友で、そーいう好きとかじゃ…、」

「りっちゃんの態度を見てればわかるわよ?」

「…マジ?…ウソだあ、」

「本当よ?りっちゃん自分で気がついてないだけじゃないかしら。」

「…そっかあ?」

「そうよ。私、りっちゃんの事見てたもの。わかるわ。」

そう、私はずっと見てたもの。
りっちゃんの事、ずっと見てきたもの。
だからりっちゃんが澪ちゃんを"好き"なのはわかってる。
そしてりっちゃんと澪ちゃんがお似合いなのもわかってる。

だから早く想いを打ち明けて、二人には付き合って欲しかった。
早く諦めてしまえる理由が欲しかった。

どうせ叶わぬ恋だもの。

幸せそうに笑うりっちゃんを見られたら、私はそれでいい。
見てるだけ、でいい。
そう、それだけでいい。

走り出した気持ちは何とか落ち着きを取り戻していた。


一際大きな唯ちゃん逹の笑い声が聞こえて反射的にそちらを見る。
楽しそうにじゃれる唯ちゃんに困った様な、でもどこか嬉しそうな笑顔の梓ちゃん。
それを見て微笑む澪ちゃん。

優しい空気で部室が満たされているのをひしひしと感じる。

「―…なあムギ、」

「なあに?」

まるで微睡んでるような感覚で呼ばれ、応える。

「ムギは私の事なんか、ちっともわかってないぞー。」

「えっ?」

「私は、ムギが好きだ。」

驚いてりっちゃんに顔を向け直して、私の心臓は大きく跳ね上がった。
りっちゃんが私を真っ直ぐに見つめていたからだ。

視線が交われば照れたようにちょっとはにかんだ笑顔を向けられて、私はどうしようもなくなってしまう。

「ぷっ、ムギ顔真っ赤。」

くっくっ、とりっちゃんは笑って続ける。

「だいたい私の事見てたなら、何で気づかないかな?私がずっとムギばっか見てたの。」

いたずらっ子のような目を私に向けながら紅茶を煽る。

「私はムギが好き。…ムギは?」

カチャリとカップを置いて、りっちゃんは頬杖をしながら顔を寄せてきた。

「わ、私は…、」

見てるだけでいい、と思っていた。

でも…本当は…――

「私も…りっちゃんが好きよ。」

―…言ってしまった。


りっちゃんはほんの少し頬を染めて満足そうに微笑んで、更に顔を寄せてくる。

「それってどういう好き、かな?」

意地悪な笑みに変えてくるりっちゃんはなんだかずるい。
なんだかわからないけど、ずるいと思った。

唯ちゃん逹の笑い声がどこか遠くに聞こえる。

「りっちゃんこそ、…どういう好きなの?」

「私は…――」

ゼロ距離まで寄せられる顔に、私は瞳を閉じた。

りっちゃんの"好き"をこの唇に感じて。

唯ちゃん逹の笑い声が聞こえて。

私はなんて幸福者なんだって思った。



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